現象の奥へ

詩集『ボードレールのために』発売のお知らせ

山下晴代 第19詩集『ボードレールのために』発売。 寄贈なし。 お求めはこちら↓ http://www.seichoku.com/item/DS2006218

蓮實重彥著『物語批判序説』

蓮實重彥著『物語批判序説』(1985年中央公論社刊) 読み返すことはない座右の書である(笑)。お得意の推理小説口調でありながら格調高い、「物語的にいえば」、矛盾するとも言える文体で、専門(博士論文?)のフローベールを中心に、近現代のフランス…

【詩】「闇と書物」

「闇と書物」闇と書物。それはボルヘスのテーマだった。暗い岸に漕ぎ着けて、生い茂る蘆の中を進み、やがて、神殿あとの廃墟に到り、祈りを捧げたあと、そのものは思い出すだろう。おのれが闇であったことを。そして書物は燃え尽きたことを。難解さを抱きし…

「春雨」

【春雨】旅人やかき乱されし春の雨

「春雷」

【春雷】春雷や異国で知つたキスの味

「春の夜」

【春の夜】 ずたずたの心かかえて春の夜

「万緑」

【万緑】万緑の中や吾子の歯生え初むる(草田男)万緑になじむ風鈴夜も昼も(蛇笏)万緑の言葉浮かびて今は春(山下)

【詩】「ボードレールのために」

「ボードレールのために」坂本龍一にはそれほど関心がなかったけれど、先日、氏が死に至るまでのドキュメンタリーをNHKで放送した。食事の後片付けをしながら流していると、しだいに引き込まれた。それは癌の末期、ほんとうに死との戦いを、克明に映しだ…

【演劇】「スウィーニー・トッド」

『スウィニー・トッド』 宮澤エマは、元首相の宮沢喜一のお孫さんで、お父さんはアメリカ人でアメリカの大学を出て良家の教養ある娘さんで、なんで芸能人になったのだろう? と思っていたら、昨日「徹子の部屋」(笑)に出てデビューまでのことを話していた…

【俳句】「古句をめぐって」

「古句をめぐって」 ひよどりの虻とりに来るさくらかな(細石)花にあそぶ虻な食ひそ友雀(芭蕉)名前なき古句が散りゆく花見かな(山下)

【詩】「Merry Christmas, Mr. Lawrence」

(2023.12.6に発表したものの再掲載) 「Merry Christmas, Mr. Lawrence」 記憶のなかからよみがえってくる生の すなつぶ。 スペインの最北端の 海からつづく天然のいけす のなかで泳いでいた何匹もの魚影、 それは「平家物語」に フォーカスする 鱸(すずき…

「源氏物語─The sonnets15」 「蓬生(よもぎふ)、あるいは重力の涙」 宣長『源氏物語年紀考』にて曰く、 この巻は常陸宮の姫君の事を始終(もはら) かける故に、始は源氏の君廿六歳、 須磨浦へ左遷の比より書出して、 (京に)帰給て後廿九歳の四月に此姫…

『オッペンハイマー』(クリストファー・ノーラン監督)

『オッペンハイマー』(クリストファー・ノーラン監督) ノーランの作品は、倒叙形式が新鮮だった、『メメント』をはじめ、『インソムニア』『ダークナイト』『インターステラー』『ダンケルク』など、ほとんど見ている。この監督は、映像的手法の天才スピル…

再掲「誇り高き野良の肖像」

FB友さんと野良猫の話になり、この写真を思い出しました。私はこの猫に出会って、野良を尊敬するようになりました。自分で言うのもなんですが、なかなかよい写真です。「野良だと思ってバカにするな」と言っているかのようです。 「誇り高き野良の肖像」@福…

【詩】「愛されるためにそこにいる」

「愛されるためにそこにいる」男は父親と二人暮らし、女は……覚えていない。かなり忘れてしまったフランス映画だ。地味なダンス教室で出会った。どちらかの家に招待され食事をした。ダンスの難しい部分についての話になったテーブルに人差し指と中指を置いて…

「マラルメ、あるいは潮風」 「併し我々を詩から遠ざけているのは浪漫主義だけでなくて、もともとこれが退屈を紛らす手段であるならば、その原因になった生きることに対する退屈そのものの問題もあり、生きているということに就て迷うのと、生きるのをやめる…

【詩】「ヴァレリー、あるいは地中海」

「ヴァレリー、あるいは地中海」「詩がそうして我々に語り掛けて、何かを我々に伝えるのは、一般に言葉を使う時の例に洩れない。それは今日でもそうであって、例えばディラン・トオマスがロンドンの空襲で焼け死んだ女の子を悼んで作った詩は、事実、その死…

アドルノ『プリズメン──文化批判と社会』

テオドール・W・アドルノ『プリズメン─文化批判と社会』(渡辺祐邦・三原弟平訳、ちくま学芸文庫)有名な、「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」という文章は、本書の「文化批判と社会」というエッセイのなかに含まれている。独立したアフォ…

『ブルターニュの光と風』展@豊橋市美術館

『ブルターニュの光と風』展@豊橋市美術館おもに19世紀のブルターニュ出身の画家たちの作品を集めた。なかの「有名人」は、ゴーギャン。タヒチに経つ前に一時滞在していた。ブルターニュは、地味ながら、それなりの画家たちのメッカだったようだ。荒々しい…

【色鉛筆画】「枯れていく白木蓮」

【色鉛筆画】「枯れていく白木蓮」

けふのNY TIMES WEEKLY, 2024. 3.10

けふのNY TIMES WEEKLY, Sunday March 10,2024(朝日新聞がデータをプリントして配達しているので、ほぼリアルタイム)【一面TOP】@ボゴタ、コロンビア。アニー・コレアル記者。「コロンビアは移民危機に直面している」「数千人のアフリカ人が、アメリカ…

アドルノ『文学ノート』

TH.W.アドルノ『文学ノート』(三光長治他訳、イザラ書房)「おのれ自身を理解していない思想だけが、本物である」「アウシュヴィッツのあとで、詩を書くのは野蛮である」 『ミニマ・モラリア』に見られる有名なフレーズである。小林秀雄は、柳田国男のよう…

ユルゲン・ハーバーマス『事実性と妥当性』

ユルゲン・ハーバーマス『事実性と妥当性』(河上倫逸・耳野健二訳、未来社刊)ハーバーマスの主著の第三期に位置する本書をなぜか亡霊の中から呼び戻し、このネット社会の混沌というより、さらにエントロピー化の進んだ世界で、どのように正しく思考すれば…

【詩】「瞳をとじて」

「瞳をとじて」ある女流作家が、Xで、自分の母の死を、「母の逝去」と書いていた。逝去とは、身分の高い人についていう言葉だ。ま、それはいいとして……ギー藤田なる映画監督とSNSで知り合った。冗談がおもしろく、どこか共通の趣味もあり、親しくなった…

【詩】「愛皇帝暗殺」

「始皇帝暗殺」風蕭蕭兮易水寒壮士一去兮不復還葱白く洗ひたてたる寒さ哉(芭蕉)易水に根深流るる寒さかな(蕪村)おのれを鼓舞するため、石に刻まれた言葉は、詩となり、日本まで来た。海は遠く、葡萄酒色。彼らはホメロスが見ていた、その色を知らなかっ…

【詩】「地獄で待ってろクソじじい!」

「地獄で待ってろクソじじい!」 某じじいの詩人が、じじい皆殺しの詩を考えて、 武器なしで言葉だけで殺したいと。 氏は、「武器」のことを、ヤクザことばの「チャカ」を「茶菓」と表現していた。なにか、ヤクザのように残虐でありたいけれど、そこまで下品…

ビクトル・エリセ『瞳をとじて』

ビクトル・エリセ『瞳をとじて』──記憶とは動き続けるもの92年の『マルメロの陽光』で、ビクトル・エリセは、脚本を作らず、最低限の設定で、画家がマルメロの木と向き合い、描いていく様子を撮った。このとき、画家との了解以外、プロデューサーも決まって…

土井善晴『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)

土井善晴『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)「料理して食べるという営みにあるのは、栄養の摂取、食の学び(マナー・知識)、空腹を満たす満足、おいしさの楽しみ、人間関係を深めるという目的だけではありません。人生にかかわるあらゆるものの起源…

【詩】「高村光太郎」

「高村光太郎」ふつう、月が出ている、とか、星が出ている、とか、書く。しかし、高村光太郎は、「火星が出ている」と書いていた。そんな詩を、料理研究家の土井善晴氏のエッセイ集、『味つけはせんでええんです』に引用してあった。そういや、中学生の頃、…

【詩】「紫式部日記」

「紫式部日記」まず大きな疑問は、古代に、自我が、存在したかどうか。平民は、穴ぐらのようなところに住んでいた時代である。「紫式部日記」なる薄い書物は、一条天皇中宮、彰子が出産のために実家である、土御門殿に帰り、安産を祈願する僧たちの読経の声…