現象の奥へ

加藤典洋著 『戦後入門』──文芸評論家の理想論(★)

加藤典洋著 『戦後入門』(ちくま新書

新書ながら635ページ。書き下ろし。2015年刊。なんでこんな本を読んだかといえば、池田清彦『ほんとうのことを言ってはいけない』(角川新書、2020年1月刊)で、50年後にも読みつがれる本として推薦されていたからだ。ジョーダンはよしこさん。こんな本刊行された時だけでしょう、それなりに読まれるのは。あと、歴史をまったく知らない若者。「文芸評論家」が大慌てで、世界史、第一大戦以降の本を「たくさん」(本人の言)読んで知識を仕込んで並べ、かつ、いかにも文学部タダの教授かなんか知らないけど(早稲田です(笑))、アタマだけで理想論を説いた本。しかも、その考えは、独自なものでなく、ドナルド・ドーアとかいう(私は知らない(笑))、イギリスの社会学者を持ち上げ、ほとんどまんまを、この書の「キモ」としている。アメリカ従属はやめようと言いながら、自分はイギリスの学者に従属している(笑)。
レビュアーのどなたかが書かれていたとおり、このヒト、国連をなんだと思ってるんですかね(爆)。西側の権力基地でしょーが。それをたよりに、日本は世界平和を推進しようって……(無言)。
だいたいどれだけ「資料」を読んだか知らないが、その資料は、このヒトの手に入る、目に映る範囲であって、全然足りない感しかり。第一、第一次世界大戦についても、独仏の権力争いから始まり、その独仏の学者が共著で書いた本が、いちばん詳しいと思うが(よく言われるように、オーストリアの皇太子が暗殺された「から」始まったんじゃ、ないぜー(爆))。また、確かに、なかなか全面降伏しない日本に、アメリカは、実験的に原爆を落としてみたいという欲望を「秘密裏」に持っていたかもしれないが、降伏したら、こうはなっていなかったわけで、それを降伏しなかったのは、決定権のあった昭和天皇である。天皇は人民は自分のために死んでもいいという帝王学を受けていた(吉田裕『昭和天皇』)。また、太平洋戦争当時の日本政府は一枚岩ではなく、陸軍の東条英機が権力を持ち始めてから、突進あるのみの戦争へと進んでいった。……という認識が欠けているような……。つまり、紋切り型で大雑把。
そして著者は、自身の主張として、改憲賛成、左方向へ、つまり、国連を中心とした平和国家へ。核は国連管理とする(笑)。
いや、もう、なんちゅうか、本中華。
著者が大いばりで主張する、日本はアメリカに従属したまま、というのは、松井久子監督の映画『不思議なクニの憲法』に登場する、ソウル大学の教授がもっとスパっと言っている「日本はアメリカの属国だけれど、草の根が強い」。これはそのまま、アジアの知識人の認識ではないかと思う。それは、敗戦時に、アメリカ政府(CIAなど)がそのように工作したことで、アメリカに不利益な指導者、田中角栄小沢一郎などは、失脚させられる……という見方もある。したがって、あんなに嫌われているかに見える安倍晋太郎が、のうのう首相を続けているのは、アメリカの「ご意向」ということになる──ぐらいは書いてほしかったですね、「爆弾」というなら。
あの〜、英文学者の中野好夫氏が『文藝春秋』に、「もはや戦後ではない」と書いているんですけど〜、その文句が、1956年の経済白書に使われ、流行言葉になったんですけど〜。「戦後入門」ではなく、なんかほかのタイトルはなかったですかね〜?

 

 

戦後入門 (ちくま新書)

戦後入門 (ちくま新書)