現象の奥へ

 『1917 命をかけた伝令 』──第一次大戦の悲惨さはこんなものではない(★★★)

『1917 命をかけた伝令 』(サム・メンデス監督、2019年、原題『1917』)(ネタバレ)

第一次世界大戦がいったいどのような戦争だったのか、ほとんどの人が知らない。で、私は常々、それに関心を持っていたので、『仏独共同通史 第一次世界大戦 上下』(岩波書店)という本を読みました。
 一応の「はじまり」は、世界史の授業で習うように、オーストリアの皇太子が、サラエボの青年に暗殺されたことです。この時の国は、オーストリアであり、サラエボです。しかし、すぐにどちらに味方するかで大国が登場し、とくに、フランス、ドイツの戦いとなって、すぐ終わるはずが、4年も続き、その間、1000万人もの死者を出した、「戦争史上、最も悲惨な戦争」になっていきます。なぜかというに、武器が工場で大量生産され、その多くが大砲であり、また戦場(フランスの土地)の村が犠牲になるからであり、戦死者がこの時、匿名となります。そんな中、本編の国、イギリスは、フランスの助っ人として参加していきます。
 1917年は、戦争終結の前年であり、塹壕戦(これが悲惨)が最も熾烈を極めていた年なのでしょう。そこに、二人の若き兵士が、伝令として、前線にいるマッケンジー大佐(カンバーバッチ)に作戦の中止を伝えに行く任務を負わされる。この戦場は、すさまじいもの……のはず、ですが、なんか書き割りみたいに見えました(笑)。そして、主人公の青年(一人は途中で死ぬ)は、川に落ちようと、ぬかるみで這いつくばろうと、顔はきれいなままです。それに、自動車はすでにあったみたいなのに、伝令を送る以外に、通信手段はなかったのか? とも思われました。まあ、それはいいとして、戦争の凄まじさは、やはり、スピルバーグの『プライベート・ライアン』の方が、ナマな感じでしたね。それに、この映画のチラシの、「驚愕の全編ワンカット映像」、これは誰でも嘘だとわかりますね。「戦場に密着する異次元の映画没入体験」このコピーも、すでに戦争の悲惨さをゲーム化している態度ですね。この戦争では、あまりの激しさに、精神を病んでしまった人々も多くいたとか。匿名の戦没者に黙祷を捧げます。しかしながら、主演俳優の青年の必死さに、星一個おまけします。