現象の奥へ

Entries from 2019-01-01 to 1 year

【本】『フーコー入門 (ちくま新書)』──フーコーのテクストとはなんの関係もない(★)

『フーコー入門 (ちくま新書)』(中山元著、1996/6/1刊、筑摩書房 ) フーコーの「処女作」は、精神科医ビンズワンガーの翻訳及び、著書の、本文より長い序文である。カントの人間学から、文献学へと進んでいったフーコーは、なにより、ドイツ語に通じる哲学…

【昔のレビューをもう一度】『ディパーテッド 』──ハリウッドが放つ純文学(★★★★★)

『ディパーテッド』(マーティン・スコセッシ監督、2006年、原題『THE DEPARTED』) 2007年1月22日 3時30分 本作を観て、私はやっと、マーティン・スコセッシという監督のことがわかったような気がする。彼のテーマは人間の心の動きで、その複雑な世界を表現…

【詩】「魔の山」

「魔の山」 病を得てトーマス・マンの、『魔の山』のようなサナトリウムにいる気分。サマセット(モーム)に文学案内されてラ・ファイエットに行き着けば、「フランスの詩は凡庸」だけど「散文には大いに学ばされる」T・S・エリオットも同様のことを言って…

【昔のレビューをもう一度】『キャロル 』──いま、女が心地よい(★★★★★)

『キャロル』(トッド・ヘインズ監督、2015年、原題『CAROL』)2016年2月17日 21時52分 50年代のアメリカの街や衣装、小道具、二人の女優の美しさにばかり目を奪われがちだが、この映画、演出が相当行き届いている。だいたい、男がろくでもないやつというか…

【詩】「雨が空から降れば」

「雨が空から降れば」 むかし「雨が空から降れば思い出は地面に染みこむ」という歌があった。ペーター・ハントケがまだ劇作家で、『被後見人が後見人になりたがる』という台詞のない戯曲を発表していた時代その題名は、シェークスピアからの引用で早稲田小劇…

【昔のレビューをもう一度】『T2 トレインスポッティング 』──懲りない面々が放つ脱青春映画……2!(★★★★★)

『T2 トレインスポッティング』(ダニー・ボイル監督、2017年、原題『T2 TRAINSPOTTING』 2017年4月26日 3時10分 吉田健一によれば、ヨーロッパ人にとってのヨーロッパとは、故郷のなじんだ風景以外のなにものでもないそうで、それは当然、それぞれに違う。…

『イエスタデイ 』──今年度ベスト3内確実(★★★★★)

『イエスタデイ』(ダニー・ボイル監督、2019年、原題『YESTERDAY』 主人公に魅力を感じなかったというレビュアーがいた。それは、有色人種であり、あまり顔を知られてない俳優だったから? ダサい有色人種の主人公は、『スラムドッグ$ミリオネア』で、デブ…

【昔のレビューをもう一度】『ブラック・スキャンダル』──洗練された21世紀の犯罪(暴露)映画(★★★★★)

『ブラック・スキャンダル』(スコット・クーパー監督、 2015年、原題『BLACK MASS』)2016年2月1日 7時43分 共感できる人物はひとりも出ない。70年代、FBI最大のスキャンダルとされる、アイルランド・マフィアがからんだ「実話」であるが、いやな感じは少し…

文学フリマのお知らせ

10月20日「文学フリマ」11:00a.m〜4:00p.m@福岡大丸(エルガーラ8F)。詩集「杉村」から「ねじ」まで、1500円均一。来てね。ご希望の方には「附録」アリ(笑)。

『真実 』──フランスに樹木希林はいない(★)

『真実』(是枝裕和監督、2019年、原題『LA VERITE/THE TRUTH』 パリの閑静な地区の広い庭のある一軒家に、往年の大女優の自伝出版を祝うため、ニューヨークに住む娘一家が集まって、その娘の父親で、昔の夫なども登場、忠実な秘書や、今の男(当然ジジイ)…

【詩】「アメリカの女」

「アメリカの女」 ジェーン・フォンダではないバーブラ・ストライサンドでもないミシェル・オバマでもないユフィーミア。ケイト・ウィンスレットのような美人ではない、痩せぎすの金持ちの娘。修道院の学校生活で貴族との結婚を密かに夢見る。べつに美男を望…

【昔のレビューをもう一度】『グランド・ブダペスト・ホテル』── ポスト・ポスト・モダン的(★★★★★)

『グランド・ブダペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン監督、2013年、原題『THE GRAND BUDAPEST HOTEL』 2014年6月9日 16時15分 ストーリーはあるにはあるが、ウェス・アンダーソンが本作で描きたかったのは、「一覧できるヨーロッパ的なるもの」と、「そ…

【昔のレビューをもう一度】『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 』──大竹しのぶ+市村正親の方がはるかによい(★★)

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 』(ティム・バートン監督、2007年、原題『SWEENEY TODD: THE DEMON BARBER OF FLEET STREET』) 2008年1月23日 2時35分 本作は、もともとあるミュージカルの「古典」を映画化したもので、復讐劇も人肉パイ…

【詩】「詩法」

「詩法」 そして非コードDNAの叛乱、夢見ればマラルメの骰子より悲し父よ母よ虚無よ遠くオリンポスで会議する神々よ韻は定義されクロンネ韻アンペリエール韻バトレ韻さかしまに吊られる巫女よ、航海の無事を祈れ!

マイケル・ムーア曰く「『ジョーカー』を見逃すな!」

マイケル・ムーア曰く、「『ジョーカー』は、今のアメリカの状況を如実に表している。この映画を観ないことの方がコワイ」と書いている。そして、彼は、鏡の中の私たちだとも。ほとんど私と同意見だと思う。 https://www.facebook.com/mmflint/posts/1015627…

『ジョーカー 』──ジョーカーはまたあなた自身(★★★★★)

『ジョーカー』( トッド・フィリップス監督、2019年、原題『JOKER』) 紋切り型のアクション映画などは、悪役は無名にやらせ、やっつけてオシマイということでメデタシ、メデタシということになる。007シリーズなどは、そのあたりをよく考えていて、ボンド…

【詩】「あるいは猿蓑」

「あるいは猿蓑」 斜めに見上げれば音綴が降るヴェルレーヌのけれど意味までは至らずこの深みはどこから来るのか悲しみの破片すらはせをには許されず乞食のように何かを乞う天使はまだ眠っている幻住庵に脚をそろえ定型を作れば許される/さまよう思い出すこ…

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち 』──Time is life(堀江貴文『時間革命』より)(★★★★★)

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち 』(キム・グエン監督、2018年、原題『THE HUMMINGBIRD PROJECT』) Facebookの創始者、マーク・ザッカーバーグを描いた『ソーシャルネット・ワーク』で、ザッカーバーグその人を演じて、GAFA時代の感性と知…

【詩】「La Carte Postale(絵はがき)」

「La Carte Postale(絵はがき)」 「第一次大戦と第二次大戦とでは、第一次大戦の方がはるかに悲惨だったね」小林秀雄が河上徹太郎に話しかける。河上相づちをうって、「ああ、そうりゃあもう」その会話を聞いてから、その証拠を探し始めている私だがめぐり…

『アド・アストラ 』──最高に美しいブラピとまったく新しい映画(★★★★★)

『アド・アストラ』(ジェームズ・グレイ監督、2019年、原題『AD ASTRA』) 本作は、キューブリックの『2001年宇宙の旅』を見てない人、ホメロスの『オデュッセイア』を読んでない人、また、テオ・アンゲロプロスの『ユリシーズの瞳』を見ていない人、スピル…

【詩】「ジクムント・フロイト」

「ジクムント・フロイト」 科学、とはなんの関係もない 人間における性生活とは、イデオロギーにすぎない、 夢は独立し、暴走する 迷宮への甘いあこがれ。実際アメリカで私は、 行方不明になった。弟子たちとりわけユングが 大騒ぎして探してくれた。 そんな…

【詩】「アンリ・ベルクソン」

「アンリ・ベルクソン」 時間の中で、言葉と空間の間に吊られ 意識を取り出そうと夢見る。同時期フロイトと、 同じものを見つめ、 魂のありかを探る。 結局、肉体と魂は平行していないことを 発見し、みずからのなきがらを葬る。 そらこれが魂というものだ、…

『SHADOW/影武者 』──あの赤、さすが中国のスピルバーグ(★★★★★)

『SHADOW/影武者 』(チャン・イーモウ監督、2018年、原題『影/SHADOW』 三国時代、日本で言えば、弥生時代で卑弥呼が活躍(笑)、西洋は、ローマ帝国の時代である。そんな時代の、国盗り物語の一エピソード、腕も頭もたつ、重臣の一人が、国を取り返そうと…

【詩】「お茶と同情」

「お茶と同情」 茶葉は香りよく煎られ古い映画のタイトルは忘れ刺客隠れたる茶工場のわが幼年期の雨父はまだ若くして父性を知らず坂道に立ち行き方を迷っている坂道の上なら港下なら街 *老去功名意囀疏獨騎痩馬取長途孤村到暁猶燈火知有人家夜讀書 **「中国…

【本】『恋人たちはせーので光る 』──「商品」としては完璧、しかし著者が「男性」である「疑惑」は残る(笑)。

『恋人たちはせーので光る』(最果タヒ著、 2019年8月30日、リトル・モア刊)最果 タヒ (著) 徹底して顔出しをしない「覆面詩人」。そういう書き手は、過去にも、アメリカ作家ピンチョンだったか、いろいろいたし、日本でもいる。しかし彼らは、公の場には顔…

【詩】「難破船」

「難破船」 たかが恋なんてと歌い出すのは中森明菜か加藤登紀子かそれはそれとして海底に沈んだ船は時間から抜け出した海賊船ソマリアの?トム・ハンクスも飛び越えてきみにできるのは声を鍛えること当然シェークスピアの舞台にたつためにシェークスピアを上…

新詩集『ねじの回転』発売!

フーコーに始まり、フーコーに終わる。「現代詩」と決別の32編、1500円、コスパ高し! 秋の夜長に紅茶とともに、人生を思考しよう! 山下晴代詩集『ねじの回転』。 製直.com以外の方はメールでご注文ください。 rukibo@mars.dti.ne.jp https://www.seichoku.…

【昔のレビューをもう一度】『アンジェリカの微笑み 』──映画とは何かを教えオリヴェイラ逝く(★★★★★)

『アンジェリカの微笑み』(マノエル・ド・オリヴェイラ監督、2010年、原題『O ESTRANHO CASO DE ANGELICA/THE STRANGE CASE OF ANGELICA』) 2016年1月30日 5時57分 「オリヴェイラは世界最大の映画作家である」と、蓮實重彥は、『映画狂人、神出鬼没』(河…

【詩】「愛からの逃走」

「愛からの逃走」 あれも詩これも詩たぶん詩……だって悲しいものよ書けないなんてちょっと気取った体位の夢を見たいの乾いたこの穴に水を与えてください金色のエキスちょっと絞ってください私はポエムの水中花 と、若い松坂慶子がレオタードに網タイツ姿で踊…

【詩】「ハムレット」

「ハムレット」 やがてはこのような題で詩、のようなものを書かねばならない未明が来ると、私もデンマークの王子にようにぼんやりと考えていた。真夜中の星とともに消えたのは、父あるいは遠い戦争の記憶で、ぼろ布をまとった修道士だったかもしれない。思え…