現象の奥へ

Entries from 2022-01-01 to 1 month

【詩】「椅子」

「椅子」 オクタビオ・パスの、「あらゆる詩に共通する唯一の特徴は、画家の絵や大工の椅子と同じく、人間の作り出したもの、作品であるということである」* という記述を読んで、父が作った椅子を思い出した。 父は「大工の修行をした」というのが得意だっ…

【詩】「Une saison en enfer(地獄での一季節)」

「Une saison en enfer(地獄での一季節)」 そうだ、わたしは、「地獄の季節」を経験したのではなく、 すでに地獄にいて、ひとつの季節を過ごしている。 絶望を喰らい、虚無に詩という仮面をつけて、 砕け散った友情について認めた。 そうだ、知り合ったの…

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』──映画はなんでもできる!(★★★★★)

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(ウェス・アンダーソン監督、 2021年、原題『THE FRENCH DISPATCH/THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN 』) 世界でいちばん新しい映画といえば、本作であろ…

【詩】「無意識の凝縮」

「無意識の凝縮」 フロイトなのかフロイトでないのか、ラカンなのか、ビンスワンガーなのか。 かつての遠い記憶。むかし、むかし、 アルパネットという、アメリカで軍事利用するための通信システムがあり、 それがいまの「インターネット」のはじまりである…

【詩】「不在との対話」

「不在との対話」 不在との対話を続けてはや、十年。 Oは、いかにして年月を知ったか、われわれにはわからない。 未来の詩人はこのように書いている、 「不在との対話──倦怠と苦悩と絶望がそれを養う」* その詩人も、頭文字をOといい、それは偶然であったが…

【詩】「Alain Robbe-Grilletの『Dans le labyrinthe(迷宮にて)』」

「Alain Robbe-Grilletの『Dans le labyrinthe(迷宮にて)』」 雨、兵士、フランスでは衿に階級章を示さず、 避難所にいて、安全。 子ども、「眠ってるの?」 外部の描写、内部の描写。 クロード・シモンとの違いは、 この「小説」は具体的描写を描きながら…

【詩】「Claude Simonの『Le Palace(ル・パラス)』」

「Claude Simonの『Le Palace(ル・パラス)』」 それは鳩が突然に現れる描写から始まり、人知れず赤ん坊を産む高貴な女性の生理的な状態の想像で終わる。 金井美恵子とか蓮實重彥が表面的に真似をしているかもしれないが、 当のシモンさえもしかしたら、オ…

【詩】「Nathalie Sarraute の『ICI(ここ)』」

「Nathalie Sarraute の『ICI(ここ)』」 Ici(ここ)というのは、当然のことながら名詞ではない、 副詞である。なぜなら、 なんら実態はない。にもかかわらず、サロートは、それ、 について20章も書き続ける──。 人物でも、物でも、記憶でも ないものが、 …

【詩】「茨木のり子」

「茨木のり子」 というひとは、そんなに偉いんですか、 個として立てって、自明なことじゃないですか。1930年生まれのうちの母だって、 戦争が終わった時はうれしかったと言ってますし、 祖母も、竹槍なんかで勝てるわけないと思っていたと言ってます。 べつ…

『スティルウォーター』──後味が悪い(★★★)

『スティルウォーター』(トム・マッカーシー監督、2021年、原題『STILLWATER』) マット・デイモンは見ていて安心する演技をする役者なので、映画を選ぶ際の基準になる。本作もそういう期待で見たが、デイモンの演技は手堅いものであったが、脚本、演出が冗…

【詩】「詩人」

「詩人」 生まれてこのかた得た語彙を使い、 ある感覚を信じて展開するのは、整合性のある文章ではなく、きれぎれの 断片。ポオなのかシェークスピアなのか、 それとも、自称映画監督のジジイか 詩人よ、そなたと時との競争は、 はじめから悲惨な結果がわか…

【詩】「新型コロナ・ウイルス」

「新型コロナ・ウイルス」 細胞の突起の形が王冠に似ていたから、スペイン語からそう名づけられた。 昔から存在していたが、「新型」と呼ばれたのはすでに変異していたから。 かといって、生物ではない。 まるで意志があるかのように動く。 しかしきみだって…

『クライ・マッチョ』──まぎれもない現役感!(★★★★★)

『クライ・マッチョ』(クリント・イーストウッド監督、2021年、原題『CRY MACHO 』) 本来老人は生きてきただけの知恵があり、それに自信を持つべきだと、小林秀雄は言っている。いまは、若者を持ち上げ、老人は「ジジイ」と蔑まれ、失われた体力と知力で、…

【詩】「仮説」

「仮説」 物質とはわれわれにとってイマージュの総体と、かのひとはいふが。 いま宋では月明かり美しい夜がひとの、 心を撓わにゆらしてゐる。 観念論でも実在論でもなく、 イマージュはイマージュとしてそこにある。 事物と表象の、 宇宙は割れて、 恋なの…

【詩】「豚とカツオの鎮魂のためにボードレールを」

「豚とカツオの鎮魂のためにボードレールを」 人間の、しかもジジイのための、心臓移植に使われる心臓を提供させられた豚よ! かわいそうに! やすらかなれ! たって、やすらかにできるわけもない。 一方、焼津では、漁師が捕ったカツオを、魚魚組合関係の業…

【詩】「あるいは裏切りという名の犬」

「あるいは裏切りという名の犬」 題名はフレンチノワールの映画の題だ、ダニエル・オートゥイユという俳優が出ている。 原題は、36 QUAI DES ORFEVRES オルフェーブル河岸36番地、つまり、パリ警視庁の住所。 警視たちが、次期長官の座を争って、どんどん…

【詩】「平家物語」

「平家物語」 平清盛は、2022NHK大河では、松平健が演ずるが、いかにも悪そうな風貌、 対する後白河院、いかにもずるそうな風貌は、もうめちゃくちゃに皺の寄った、西田敏行扮する。 清盛の妻の妹が後白河院とのあいだに産んだ子を天皇とし、清盛の娘を、そ…

【詩】「明月記」

「明月記」 頭上に残る白雪は、なぜか、南極に残された太郎次郎を思わせる。 内の殿上を許されるのが生涯最大の夢、 とは虚しき。 ウイルスはなお大暴れ、しかし、平家は壇ノ浦に消え、 テレビドラマは『鎌倉殿の十三人』。この、 13という数字、いかにもエ…

【詩】「ソシュールの『一般言語学講義』」

「ソシュールの『一般言語学講義』」 それは1916年に出版された、学生たちのノートを参考にして。 ソシュールはそんな本の原稿を書かなかった。 しかしそれは、現在使用されるすべての言語の、 構造をあかした。 ことばには、パロールとラングがあり、 こと…

【詩】「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」

「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」 「若しトルストイが『永遠の良人』を書いたら、この作品は、恐らく二倍の分量になってゐた」 「ドストエフスキイは、前篇的顚末をものの見事に割愛してゐる」 突然の主人公たちの邂逅と重い背景。 この手法を、池…

【詩】「双六」

「双六」 一枚の紙をひろげれば、できあがる世界。 切ない年始めのこころを受け止める。 骰子ふり出た目の数をすすめば、 骰子一擲ネバーネバー同じならずの声。 「おんな双六」なるもののあがりは、 「奥さま」 紋のある羽織を羽織ってかしこまった奥さまの…

【詩】「プルースト」

「プルースト」 それは魔法の言葉。 André Dussollierが読むプルーストを聴く夜、 しぶんぎ座流星群が静かに落ちかかる準備をしている、新月の次の日。 ゆえに、しぶんぎ座流星群はよく見えるらしい。 昏さが温かさに変わる夜、世界のために祈ろう。 とりわ…

【詩】「Let us go then」

「Let us go then」 T・S・エリオット自身の絡みつくような肉声を聴いている。今夜は、The Love Song Of J.Alfred Prufrock。 夕暮れが空いっぱいにひろがり、誰かは急いでいる。 安ホテルに一夜だけの宿をとり、どこかの窓辺では、 女たちが行ったり来たり…

【詩】「ロリータ」

「ロリータ」 それは朗読するジェレミー・アイアンズのくぐもった声。 白いソックスの少女の幻影。 実態のない、ただの音。それから、 アルファベット。遠い記憶の、 ナボコフの講義の原稿。 ポルノグラフィーに隠された知性。 いつでも、人生に疲れた、萎え…

【詩】「新年の手紙2022」

「新年の手紙2022」 ねずみ、ゴキブリ、ウィルス、酵母、 懐かしい地球の思い出。 たとえ人類がきみたちを忘れ、 きれいごとに走ろうと、きみたちのことを、 私は忘れない。 その昔、ゲイのイギリス人がいて、 性的自由を求めてアメリカに渡った。その昔、 …