現象の奥へ

映画レビュー

『スパイの妻<劇場版> 』──学芸会レベル(★)

『スパイの妻』(黒沢清監督、2020年、英語題名『WIFE OF A SPY』 蓮實重彥は、黒沢明のことを二流だと言った。さもありなん。近頃、「世界」では、クロサワと言えば、この「清」らしいけど、それはどこから出た「噂」なのか(笑)? 悪いけど、この映画、ベ…

『シカゴ7裁判』──「コロナ時代」から見た1968(★★★★★)

『シカゴ7裁判』(アーロン・ソーキン監督、2020年、原題『THE TRIAL OF THE CHICAGO 7』 (2020/10/10@キノシネマ天神) 「アメリカ人であることが恥ずかしいと思った」(スーザン・ソンタグ) 1968年と言えば、世界的に「革命」が起こった年、アメリカでも…

【昔のレビューをもう一度】『ロープ/戦場の生命線 』──センス抜群のおとなのおハナシ(★★★★★)

『ロープ/戦場の生命線 』(フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督、2015年、原題『A PERFECT DAY』 2018年2月18日 20時54分 解説と題名を見てしまうと、いかにもお堅い映画のようだが、全然ちがう。ベニチオ・デル・トロの男臭い魅力爆発の、恋愛映画な…

『ミッドナイトスワン』──草薙剛の「引き」の演技がすばらしい(★★★★★)

『ミッドナイトスワン』( 内田英治監督、2020年)(2020/10/1@キノシネマ天神) 労働者の息子がバレエを習い始め才能に開花し、反対していた父親も最後は応援してくれ、ニューヨークシティバレエだったかのプリンシパルにまでなる映画、『リトルダンサー』…

『ファナティック ハリウッドの狂愛者 』──センスはよいがリアリティがないのが致命的(★★★)(ネタバレ)

『ファナティック ハリウッドの狂愛者 』(フレッド・ダースト監督、2019年、原題『THE FANATIC』)(2020/9/23@KBCシネマ福岡) 役者で観る映画がある。トム・ハンクス、ダイアン・キートン、ジョン・トラボルタ……などなど。彼らが出るといえば、とりあ…

『TENET テネット 』──真の作家(★★★★★)

『TENET テネット 』(クリストファー・ノーラン監督、2020年、原題『TENET』)(2020/09/18@ユナイテッドシネマ、キャナルシティ13) これが時間のループなら、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』である。日本人の漫画を映画化したあの作品は、斬新であ…

『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』──沈黙と測りあう音を探して(★★★★★)

『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』(マウロ・リマ監督、 2017年、原題『JOAO, O MAESTRO』) 画家の梅原龍三郎と一年、鎌倉の旅館で生活をともにした小林秀雄は、「一流の芸術家には、徹底したものがある」と、講演のCDで言っているのを何度も聞いたが、…

『幸せへのまわり道 』──ハンクスいぶし銀の演技(★★★★★)

『幸せへのまわり道』( マリエル・ヘラー監督、2019年、原題『A BEAUTIFUL DAY IN THE NEIGHBORHOOD』) 模型の列車や町並みから始まるオープニングがなんともまだるっこしい。続いて登場の、子供番組の人気者、フレッド・ロジャースを演じるトム・ハンクス…

【昔のレビューをもう一度】『ブラック・スキャンダル』──洗練された21世紀の犯罪(暴露)映画(★★★★★)

『ブラック・スキャンダル』(スコット・クーパー監督、 2015年、原題『BLACK MASS』) 2016年2月1日 7時43分 共感できる人物はひとりも出ない。70年代、FBI最大のスキャンダルとされる、アイルランド・マフィアがからんだ「実話」であるが、いやな感じは少…

『グッバイ、リチャード!』(ウェイン・ロバーツ監督、2018年、原題『THE PROFESSOR/RICHARD SAYS GOODBYE』) 肺がんで、治療すれば一年、もしくは一年半、と、医者が言い、文学の教授のデップは、「治療しなければ?」と問う。医者は答える。「半年」。が…

『ポルトガル、夏の終わり 』──うちの民宿にはいろいろな人が泊まりました(★)

『ポルトガル、夏の終わり』(アイラ・サックス監督、2019年、原題『FRANKIE』) フランスの女性は、生涯「女」をやめることができない。ゆえに、女優も、「女」であり続ける役しかできないし、フランス系の映画は、「女」以外の役がない。たとえば、『ビリ…

『ジョーンの秘密 』──演劇界の大御所ナンが描く劇的なる青春(★★★★★)

『RED JOAN』( トレヴァー・ナン監督、2018年、原題『Red Joan』) ドキュメンタリーと銘打たないかぎり、映画というのは、「事実をもとにし」ようが、「事実にインスパイア」されようが、すべて創作と見るべきであり、事実からいかに離れたか、が、作…

『ブレスレット 鏡の中の私 』──どういうつもりでこんな映画を作ったのか?(★)

『ブレスレット 鏡の中の私 』(ステファヌ・ドゥムースティエ監督、2019年、原題『LA FILLE AU BRACELET/THE GIRL WITH A BRACELET』) フランス語が聞きたくなって、この映画を選んだが、ほとんどが裁判シーンの低予算お手軽映画だった。確かに扱っている…

『悪人伝 』──仁義なきカタルシス(笑)? (★★★★★)(ネタバレ注意!)

『悪人伝』(イ・ウォンテ 監督、2019年、原題『THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL』) タランティーノより残酷、スピルバーグよりうまい。なにより頭で作ってない。生活感を出しながら、物語を展開させる。でたらめ、はちゃめちゃ、どろどろ……仁義なき、ど…

【昔のレビューをもう一度】『グッバイ・ゴダール! 』──いかにもゴダールチックな偽物(★)

『グッバイ・ゴダール』(ミシェル・アザナヴィシウス監督、2017年、原題『LE REDOUTABLE/GODARD MON AMOUR』)2018年7月23日 4時26分 『ゴダール全評論・全発言』(筑摩書房)によれば、ゴダールはなによりも作家になりたくて、しかも、かなり長い間、評論…

 『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』──少年の成長物語(★★★★★)

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』(ニコラウス・ライトナー監督、2018年、原題『DER TRAFIKANT/THE TOBACCONIST』) 小さな「ビルドゥングス・ロマン」(トーマス・マン『魔の山』のような青年の成長物語)である。小さなというのは、歴史的…

【昔のレビューをもう一度】 『神々のたそがれ』──あらゆる快楽を拒絶する映画(★★★★★)

●最近、しきりにこの映画が思われる。いまの「外」の景色はこんな風ではないかと。 『神々のたそがれ』(アレクセイ・ゲルマン監督、2013年、原題『TRUDNO BYT BOGOM/HARD TO BE A GOD』) 2015年7月20日 15時19分 このレビューを書く前に、ほかの方々が書か…

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時 』──「物語」をからくも回避(★★★★★)

『グレース・オブ・ゴッド』(フランソワ・オゾン監督、2019年、原題『GRACE A DIEU/BY THE GRACE OF GOD』) 20年以上前、日本人でバチカンに留学し、神父のエリート街道にある人を、人に紹介され、食事を数回するうち、いろいろ話を聞いたことがある。カト…

『チア・アップ! 』──老いてますますかっこいいダイアン・キートン・ショー(★★★★★)

『チア・アップ』(ザラ・ヘイズ監督、2019年、原題『POMS』) 「ばあちゃんたちのしわを見るだけの映画でした」というレビューがあったけど、見る前に、わからんかったのかね? どんな映画か。まさか、若き美女が美しい肢体ですばらしいダンスを披露するっ…

『その手に触れるまで』──複雑なキリスト賛美映画(★★★)(ネタバレ注意)

『その手に触れるまで』( ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ監督、2019年、原題『LE JEUNE AHMED/YOUNG AHMED』) 本作は、『息子のまなざし』(2002年)と、『少年と自転車』(2011年)に構造とテーマが似ていて、テーマは、少年である。…

『一度も撃ってません』──半年間思い出し笑い必至のごきげんな映画(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『一度も撃ってません』(阪本順治監督、 2019年) アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』もそうだったが、映画と演劇というものが対立するものではなくて、実は境目のないものであることを証明している映画が近年出てきているが、本作もそのひとつ…

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』──さすがアレン、オバサン的どんでん返し(★★★★★)

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(ウディ・アレン監督、2019年、原題『A RAINY DAY IN NEW YORK』) ニューヨークは、14年前に行ったきりだ。そのときも、雨が降っていた。1月下旬の真冬で、かなり寒いと脅されていたが、その年は、わりあい温暖で…

『ANNA/アナ 』──ビッチに乾杯!(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『ANNA/アナ 』(リュック・ベッソン監督、2019年、原題『ANNA』) リュック・ベッソンと自分は、ほとんど同じことを考えているのではないか?と思うぐらい今回の映画には興奮した。作られる女スパイとは、どうせ、KGBの幹部役のヘレン・ミレン(父はロ…

【昔のレビューをもう一度】『ゲティ家の身代金』──「カンヌ」なんてカンケーねえな(爆)(★★★★★)

『ゲティ家の身代金』(リドリー・スコット監督、2017 年、原題『ALL THE MONEY IN THE WORLD』) 2018年6月7日 10時13分 1973年に起こった、大富豪の孫の誘拐事件がもとになっている。1973年といえば、オイルショックの年である。日本では街中の灯りが消え…

『ペイン・アンド・グローリー』──男が男を愛する時(★★★★★)

『ペイン・アンド・グローリー』(ペドロ・アルモドバル監督、2019年、原題『DOLOR Y GLORIA/PAIN AND GLORY』) 見ているうちに、自然に、『欲望の法則』(1987年)を思い出した。そしてそれはちょうど、本編で語られる、「32年前の映画」だった。男三人の…

【昔のレビューをもう一度】『オオカミは嘘をつく』──イスラエル人がイスラエルを告発した映画(★★★★★)

『オオカミは嘘をつく』(アハロン・ケシャレス ナヴォット・パプシャド監督、2013年、原題『BIG BAD WOLVES』) 2015年1月29日 1時00分 タランティーノ絶賛!という宣伝文句だが、それもよくわかる。「タラちゃん絶賛!」がなかったら、スルーされていた映…

『デッド・ドント・ダイ 』──『未知との遭遇』×『バタリアン』(★★★★★)

『デッド・ドント・ダイ 』(ジム・ジャームッシュ監督、2019年、原題『THE DEAD DON'T DIE』) ジム・ジャームッシュの映画に、マジを期待してはいけない。「どうせ」、なにかのパロディ&メタなのである。今回は、スピルバーグの『未知との遭遇』の、あの…

『インティマシー/親密 』──あらゆる意味でほんもののセックス(★★★★★)

『インティマシー/親密 』(パトリス・シェロー監督、2000年、原題『INTIMACY』) お互いに名前さえ知らない男女が、週に一度、水曜に、男の住まいで、性交のみを繰り返す。まるで『ラスト・タンゴ・イン・パリ』だが、中身はだいぶ違う。男は中年(といっ…

『ラストタンゴ・イン・パリ 』──ゴダールにもトリュフォーにもなれなかった(★★)

『ラストタンゴ・イン・パリ』(ベルナルド・ベルトルッチ監督、1972年、原題『LAST TANGO IN PARIS/ULTIMO TANGO A PARIGI』) 昔テレビかなにかで見た記憶があるが、ちゃんと見たのかどうかはわからない。ラストシーンだけはなんとなく記憶にあった。それ…

【昔のレビューをもう一度】『万引き家族』──確信犯的

『万引き家族』( 是枝裕和監督、2018年、英題『SHOPLIFTERS) 本作は、是枝作品としては決して最上の作とはいえず、かつ、カンヌ映画祭で、柳楽優弥に14歳で最年少主演男優賞をもたらした、『誰も知らない』の、自己模倣作品と言える。テーマ的には一歩も進…