現象の奥へ

映画レビュー

『博士の異常な愛情 』──キューブリックとセラーズ、二人の天才

『博士の異常な愛情 』( スタンリー・キューブリック監督、1964年、原題『DR. STRANGELOVE: OR HOW I LEARNED TO STOP WORRYING AND LOVE THE BOMB』 キューブリックはまさに「巨匠」の名にふさわしい監督であり、『2001年宇宙の旅』など歴史に残る傑作なの…

『さすらいの二人』──ジャック・ニコルスンのけれんみのない演技

『さすらいの二人』( ミケランジェロ・アントニオーニ監督、1974年、原題『IL REPORTER/PROFESSIONE: REPORTER』) ストーリーを知り、テレビ放映かで漠然と見た時から、二十年以上、私のテーマであった。自分以外の人間になりかわって、その人の生を生きて…

『ミシシッピー・バーニング』──生涯ベスト3

『ミシシッピー・バーニング』(アラン・パーカー、 1988年、原題『MISSISSIPPI BURNING』) この映画は、初めて公開されたのを観た時から、長く私の脳裏に焼き付いていた。ピーカンナッツというナッツも、この時、ハックマンが紙袋から食べていて初めて知っ…

『カンバセーション…盗聴… 』──地味なはずの孤独な盗聴屋映画なれど……

『カンバセーション…盗聴… 』(フランシス・フォード・コッポラ監督、1973年、原題『THE CONVERSATION』) 劇場ではないが、以前にビデオかテレビで見た記憶があり、もっと渋い内容だと思っていたが、意外や、というか、当然なのか、コッポラのロマンチシズ…

『フレンチ・コネクション 』──本作を見ずして映画を語るなかれの古典

『フレンチ・コネクション』(ウィリアム・フリードキン監督、1971年、原題『THE FRENCH CONNECTION』 私の原点だと思っている映画で、「ビデオ」(笑)で二回ほど見ていたが、今回Amazonレンタルで見直してみようと思った。初公開時は、高校生だったので劇…

【昔のレビューをもう一度】『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』── ジェイク、スター性をかなぐり捨てる

●とくに好きだと思ったことはなかったジェイク・ギレンホール。というのも、ほとんど子役を脱したあたりから見ているので、男性として意識(って、ファンと心理とはこんな感じだろう(笑))することはなかったのだけど、二十代前半に出た、『ジャーヘッド』…

【昔のレビューをもう一度】『メッセージ』──ソシュールもびっくり(笑)

『メッセージ』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2016年、原題『ARRIVAL』)2017年5月21日 22時02分 地球外から「宇宙人」が来た場合、スピルバーグの『未知との遭遇』までは、ひたすら「侵略者」で、いかに戦うかが問題であった。しかし、スピルバーグが、「宇…

【昔のレビューをもう一度】『君の名前で僕を呼んで 』──愛とは教養である

●愛とは、男と男の愛しかない。 『君の名前で僕を呼んで 』(ルカ・グァダニーノ監督、2017年、原題『CALL ME BY YOUR NAME』)2018年5月1日 23時27分 愛とは教養である。教養がないと、「モーリス」映画を期待して外されたと悪態をついたり、ストーリーや演…

【昔のレビューをもう一度】『サバービコン 仮面を被った街』──面白いのか面白くないのかわからない(笑)

●──と、書いたのは2年前だが、「今」は、確実に、傑作と言える。 『サバービコン 仮面を被った街』(ジョージ・クルーニー監督、2017年、原題『SUBURBICON』) 2018年5月8日 4時59分 この映画、面白いのか面白くないのか、わからない(笑)。ていねいな作り…

『ミッドナイト・ラン』──映画が端正であった頃の夢のような映画

『ミッドナイト・ラン』(マーティン・ブレスト監督、1988年、原題『MIDNIGHT RUN』) 同監督の『セント・オブ・ウーマン』(これは自分が購入していたDVDで再見したが)に感心したので、この作品も、AmazonPremireのレンタル(¥199)で「再見」した。とは…

 『セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』──絶滅危機の美しき映画

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り 』(マーティン・ブレスト監督、1992年、原題『SCENT OF A WOMAN』) 全盲の退役軍人は女好きで、目は見えなくともその女の香りでその女を「見る」ことができる──。西欧の女性はたいていフレグランスを付けていて、その…

『砂の惑星』──変態向き「おこもり」SF

『砂の惑星』( デヴィッド・リンチ監督、1984年、原題『DUNE』) AmazonPrimeレンタル(199円)で見ました。コロナ時代となって、なんかもういっぺん見てみようかな、という作品を見ています。36年前の作品。今から見ても超イケメンのカイル・マクラクラン…

【昔のレビューをもう一度】『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 』──帝国主義者が魅力的では困る(笑)

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 』( ジョー・ライト監督、2017年、原題『DARKEST HOUR』 2018年4月5日 0時08分 かつて日本には「バカヤロー」って言って国会を解散した首相がいたが、なんかそんなヒトを思い出したナ。「貧乏人は…

【昔のレビューをもう一度】『マリー・アントワネット』──主役はヴェルサイユ

●新型コロナに感染してロンドン病院に入院中の、かつてのミューズ、マリアンヌ・フェイスフルが、マリア・テレジアの役で出ている。 フェイスフルもヴェルサイユも、サバイバルを祈る! 『マリー・アントワネット』( ソフィア・コッポラ監督、2006年、原題…

『何かいいことないか子猫チャン』──コロナ時代の「おうち」でのけぞろう!

『何かいいことないか子猫チャン』(クライヴ・ドナー監督、ウディ・アレン脚本、1965年、原題『WHAT'S NEW, PUSSYCAT?』 ウディ・アレンのレビュー作にして出世作。監督はやってなくて、脚本と出演だけだが、すでにして、「フツーのオバカ映画」(そんなも…

【昔のレビューをもう一度】『トレイン・ミッション』──ダメなジジイが一番スゴイ(笑)

『トレイン・ミッション』(ジャウマ・コレット=セラ監督、 2018年、原題『THE COMMUTER』)2018年4月11日 21時39分 のっけから、ダメなジジイ丸出しのリーアム・ニーソン。実際は65歳ながら、60歳になって警察からトラバーユした保険会社に勤めて10年たっ…

【昔のレビューをもう一度】『オール・ユー・ニード・イズ・キル』──コロナ時代のサバイバル法を先取り?

◎『クワイエット・プレイス』のエミリー・ブラントが、トム・クルーズを鍛える女兵士として登場。日本のライトノベル作家、桜坂洋原作。発想がすばらしい。 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(ダグ・ライマン監督、2014年、原題『EDGE OF TOMORROW/ALL …

【昔のレビューをもう一度】『クワイエット・プレイス』 ──ウイルス相手の戦いに似ている

◎見えない敵がどこからともなく襲ってくる未来。生き残りをかけて一家の主婦(エミリー・ブラント)が戦い抜く。本作の敵は、宇宙人のようだけど、新型コロナは地球を席巻しつつある今、この映画を思い出した。 『クワイエット・プレイス』((ジョン・クラシ…

『PMC:ザ・バンカー』──「やさしくなければ生きている価値はない」(★★★★★)

『PMC:ザ・バンカー』 (キム・ビョンウ監督、2018年、原題『TAKE POINT/PMC: THE BUNKER』) 2020年、北朝鮮がすきな「日本人」はいない、と思われる。本作にあがっているレビュアーのうち、一人として、「北朝鮮」という言葉を書いていない。それをはなか…

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』──三島由紀夫という「現代思想」(★★★★★)

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』(豊島圭介監督、2020年) 三島由紀夫は「当時」、ノーベル賞をうんぬんされる世界的作家(実際、カワバタではなく、彼が取るべきだった)であるのだが、全共闘が突然電話をかけてきて、討論をやりたいといい、快く…

『コンテイジョン』──ウイルスとデマとインターネット(★★★★★)

『コンテイジョン』 (スティーヴン・ソダーバーグ監督、2011年、原題『CONTAGION』) 8年前にリアルで観たが、つい、この映画が頭に浮かび、当時はレビューを書いていなかったが、レビューを書きにやってきた(笑)。まさに、2020年3月の状況とそっくりであ…

【昔のレビューをもう一度】『たかが世界の終わり 』(★★★★★)──ウリエリの美を堪能

●今こそこの映画を!! 『たかが世界の終わり』(グザヴィエ・ドラン監督、2016年、原題『JUSTE LA FIN DU MONDE/IT'S ONLY THE END OF THE WORLD』 かつて、映画評論家の淀川長治は、アメリカ滞在中、いやいや無名の監督の作品を見せられ、やがて、それは感…

『スキャンダル 』──ジョン・リスゴー、セクハラオヤジになる(★★)

『スキャンダル』(ジェイ・ローチ監督、2019年、原題『BOMBSHELL』) のっけから身内のことで恐縮ですが、今年89歳になる母は、30代から70代までラベルなどの印刷会社に勤めていたましたが、同僚で私の同級生の父親だったHさんは、Kさんという若い女の子…

【昔のレビューをもう一度】『新聞記者』──安倍という名前を出さなければ絵に描いた餅

★祝! シム・ウンギョンさん、日本アカデミー主演女優賞! 『新聞記者』(藤井道人監督、2019年)(2019年7月11日 記) すでにマスコミで報道された、国民の誰もが知っている「スキャンダル」に想像を加え、官僚の世界を描きながら、暗にその陰には政府があ…

『Fukushima 50 』──現場!(★★★★★)

『Fukushima 50 』( 若松節朗監督、2019年) たとえば、アジア太平洋戦争(というのが、良識的な名称であるようだ)についての映画があったとして、それが「なぜ起こった」という点に焦点があてられた映画だったら、「私はその戦争を経験しました。でも、私…

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン 』──素直に賞賛すべき(★★★★★)

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン 』(タイラー・ニルソン マイケル・シュワルツ 監督、2019年、原題『THE PEANUT BUTTER FALCON』) ダウン症という「病気」に大いなる誤解があるようだ。ダウン症はいわゆる「知的障害」ではない。染色体異常によって、…

『名もなき生涯』──「作家性」とは、「文体」を持っているかどうか(★★★★★)

『名もなき生涯』(テレンス・マリック監督、 2019年、原題『A HIDDEN LIFE』) 「作家性」なる言葉をやたら振り回している御仁を見かけるが、ほんまに意味がわかってるのかね(笑)? 「作家性」とは、この、テレンス・マリックみたいな監督にこそふさわし…

『容疑者、ホアキン・フェニックス』──クサい物語回避の知的作品(★★★★★)

『容疑者、ホアキン・フェニックス』 (ケイシー・アフレック監督、2010年、原題『I'M STILL HERE』) そう、確かに、10年ほど前、ホアキン・フェニックスが俳優を引退するという「ニュース」が、マジでマスコミを駆け巡った。その「真偽」が本作だった。当時…

 『1917 命をかけた伝令 』──第一次大戦の悲惨さはこんなものではない(★★★)

『1917 命をかけた伝令 』(サム・メンデス監督、2019年、原題『1917』)(ネタバレ) 第一次世界大戦がいったいどのような戦争だったのか、ほとんどの人が知らない。で、私は常々、それに関心を持っていたので、『仏独共同通史 第一次世界大戦 上下』(岩波…

【昔のレビューをもう一度】『母なる証明』 ──韓国の手触り(★★★★)

● ポン・ジュノ監督、『パラサイト』 祝! アカデミー賞 監督賞+作品賞● すでに国際的な仕事をしていたジュノ監督なので、アジア人とはいえ、当然の流れなのかも。本作より、『スノーピアサー』(クリス・エヴァンスがかっこいい)の方が私は好みで、高く評…