詩
「ト書き」シェークスピアの作品にはト書きがほとんどない。登場と退場があるだけだ。それというのも、エリザベス朝の舞台には照明が松明のあかりしかなく、薄暗かったから、こまごました装置はあってもしょうがなかった。少年が女性を演じ、それは、歌舞伎…
「お盆のエリオット」テムズに浮かぶは、きわめて日本的な郷愁。サンドイッチの包み紙やオーフィリアが抱えていたオダマキではない。エリザベス朝のフローラよ英国人の死を飾れ。ナスの馬や蓮の葉、きびがら、祖母おさと婆さんの恋が最初の夫の位牌とともに…
【詩】「地中海」夏の終わり南仏で、初めて地中海に足を漬けた飛び上がるほど冷たかった。地中海の子ヴァレリーよ、きみはダヴィンチの方法を書いた女神がやってきて飛び散るしぶきのように笑った。ホメロスはまだ若者でパピルスに歴史が描かれるなんて思い…
「失うということ」結局、死ぬまで、失うということを知らないひとはたくさんいる。知らないまま死んでいく。失う。すべてを失う。それがどういう感じなのか、ウンガレッティは「すべてを失って」という詩のなかで書いている。人生が叫べぬ声の岩となって喉…
「燃えあがる薔薇」あなたの夢は倒叙形式でやってくる結末ではなくはじまりを見るために
「詩を書く権利」詩を書く権利は誰にでもある。それは詩ではないと言われようと。下手くそと言われようと、無名のくせにと思われようと、詩壇(というものがあるとして)が無視しようと、詩を書く権利は誰にでもある。絵を描く権利と同じように。ときに詩集…
「ほととぎす」ほとゝぎす栗の花ちるてらてら日 李千依然、鳥の姿はつかめずキリアン・マーフィーはきれいな顔を歪ませてオッペンハイマーの姿の陰。砂漠、実験、あれがああなれば……。私は小学生で図書館で『人類の夢原子力』という本を読んでいた。そこに書…
「かきつばた」捲あぐる簾のさきやかきつばた 如行孤独は守られねばならぬ。夢は他人の夢に混じらねばならぬ。シリア人の乗った船は汚水を含んでいなければならぬ。古句にイタリアは混じらねばならぬ。原書『資本論』に誤植がなければならぬ。ヘブライ人は亡…
「昼顔」 昼顔や魚荷過ぎたる浜の道 桃妖 なまぐさき郷愁もある炎天下 やがて咲きたる青い花昼顔科なれど 名前はアメリカンブルー 名前に似ず弱々しき茎と葉 あの日から何十億年経ちました。 海の水は涸れ、 人類はいるのかいないのか。 ただ記憶として牡丹…
「クロード・レヴィ・ストロースに捧ぐ」「問題にしたり、論争したりすることが新しいのではない。新しさは文学の世界に最も古くからあるものなのである」(吉田健一)エリオットも同じような趣旨のことを言っている。おそらく、オクタビオ・パスも。だから…
「明日は帰ろう羅生門」激しい雨に降り込められて、頬のニキビを押さえつつ下人は、自分がディカプリオだった頃を思い出す。都大路は荒れ果てて、人心は狂い、同じレオナルドでも、ダ・ヴィンチ写生用の死体がいるので、死体のメッカ、ここ羅生門の二階まで…
「女の一生」pasa gune cholos estin, echei d'agathas duo horas,ten mian en thalammo, ten mian en thanato.小林秀雄は杉村春子が嫌いだった。体は貧相は顔は……なんであんな女が舞台でいい女を演じるのか?!二代目杉村を継ぐはずだった太地喜和子だって…
「葡萄酒色の海」名前はオデュッセウスだったかどうか、忘れた。しかし女神たちよ歌ってくれこの葡萄酒色の海で。これから世界一の美女、ヘレナを奪回するために、われらはトロイアという国に向かうヘレナファン同盟。もちろん妻子ある男もいる。その名が、…
「エリオットのゲロンチョン」エリオットに「ゲロンチョン」という詩作品がある。ずいぶんおもしろい響きの作品だが、れっきとしたドイツ語だったかな〜の単語で、老人の意味だったと思う。と思う、いうのは私も老人でいろいろなことを忘れているからだ。サ…
「Voyage au bout de la nuit(夜の果てへの旅)」Ça débuté comme ça.それはこんなふうに始まった。夜はいつから始まったのか、皆目見当がつかなかった。ただ夜のなかを漂うように歩いていた。はじめ、それは郷愁を誘う音楽のようであり、上から見下ろす、…
『源氏物語─The sonnets』7 7「紅葉賀(もみぢのが)、あるいは、デニーロとパチーノはパパ友、だからなに?」 金があって有名なら若くてきれいな女はいくらもつく こどもぐらいなんぼでもつくれるけど日本はなぜか少子化対策 いっそのことインドなどの人口…
「Finnegans Wake(フィネガンのお通夜)」riverrun, past Eve and Adam's from swerve of shore to bend of bay, brings us by a commodius vicus of recirculation back to Howth Castle and Environ.川走る、故イヴとアダムさま、海岸逸れてより湾曲がり…
『源氏物語─The sonnets』6 6「末摘花、あるいは、マックス・コメレル」 コメレルの『源氏物語』と題する評論。 「彼女の描いた生は、どこにも切れ目のない、 至上のこまやかさにまで達している 一つの儀礼である。 魂の力によって この儀礼にたしかな保証を…
「ピカソの『腕を組んで座るサルタンバンク』を模写して」「ヴァン・ゴッホ(60色)」という名の色鉛筆で、ピカソの「腕を組んで座るサルタンバンク」という絵を模写しようとして、サルタンバンク(旅芸人)の赤い衣装の赤のために、色を選ぼうとして、まず…
「限海」 細田傳造に捧ぐ傳ちゃんが二人で、やっと倍傳なんつって(笑)。傳ちゃんごめんね。私あの人のことあんまり知らんかったのよ。すぐアタマに浮かんだのがあの詩集だった。昔は感心したものだった。あんな詩書けへんわと思って。しかし何十年も過ぎて…
「Ti con zero(ティコンゼロ)」 La molle Luna Secondo i calcoli H. Gerstenkorn, sviluppati da H.Alfven, i continenti terrestri non sarebbero che frammenti della Luna 柔らかい月 エッチ・ジェルステンコルンが推論し、えっち・アルフヴェンが敷衍…
『源氏物語─The sonnets』5 5「若紫、あるいは、雑草という草はない」 武蔵野に色やかよへる藤の花若紫に染めて見ゆらむ ことばたらずの愛を愛を とあいみょんが歌う、 これがドリカム吉田美和とかユーミンでは 時代遅れもはなはだしい NHK朝ドラも世につれ …
「どうする山下?」父方は遠江浜松、母方は長篠ことしは、そういう年だ。遠州の森に来てみれば茶工場あり。あたりは揉み砕かれる茶葉の匂いに満ちている。伯父と父がなにやら茶葉を噛みながら、うなずき合っている。むきだしの梁から下がった木のブランコを…
『源氏物語─The sonnets』4 4「夕顔、あるいは、記憶よ語れ」 身分の低い階級にもいいおんなはいるんだ、 ということを、源氏は頭中将に知らされて そんな女との出会いを果たす。 それは中将の愛人であった。 寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見…
「雨の日」suddenly in the midst of a game of loto with his sistersArmstrong let a roar out of him that he had the raw meatred wet flesh for Louis 突然ロトの最中に姉妹たちとやってきてアームストロングは大声をあげる生のフレッシュな赤身の肉を…
『源氏物語─The sonnets』22 「帚木、あるいは、排蘆小舟」あしわけをぶねは、三十四歳の宣長の生涯未発表の処女作なり、そして歌論なり。歌の本体、政治をたすくるためにもあらず。身をおさむる為にもあらず。たゞ心に思ふことをいふより外なし。はゝきの心…
『源氏物語─The sonnets』11「桐壺、あるいは、物の哀れ」なぜ、ひとは物語を必要とし、なぜ、ひとはこころをもつのか、それは、ベルクソンも柳田国男も答えてはいない。ただ示唆するのみ。そして本居宣長は、それに名前をつける。すなわち、物の哀れである…
「あるいは、しなびたオレンジ」ミシェル・ピコリが朗読するボードレール『悪の華』を、午前三時頃?ふとんのなかでiPhoneからイアフォンで聴きながら、眠ってしまった。目が覚めた時は翌七時四十分だった。大急ぎで起きて朝食の準備だが……そのあいだ、その…
「詩」古来日本において「詩」とは漢詩のことであり、最古の詩篇は、「詩経」である。紀元前より江戸時代まで、志のあるものは、これを勉強した。曰く、我心匪鑒 不可以茹わが心鑒(かがみ)に匪(あら)ず、以(もつ)て茹(はか)るべからず。わたしのここ…
「古今のなかの萬葉」大伴家持が、天平宝字三年(七五九年)にまとめたと言われる万葉集は、四〇〇年ぶん、四五〇〇余首。一五〇年経って勅撰の世となった古今和歌集(九〇五年)に、萬葉の柿本人麿登場すなり。わがやどの池の藤波咲きにけり山ほととぎすい…