現象の奥へ

【詩】「古今のなかの萬葉」

「古今のなかの萬葉」大伴家持が、天平宝字三年(七五九年)にまとめたと言われる万葉集は、四〇〇年ぶん、四五〇〇余首。一五〇年経って勅撰の世となった古今和歌集(九〇五年)に、萬葉の柿本人麿登場すなり。わがやどの池の藤波咲きにけり山ほととぎすい…

【詩】「夜行(よるのたび)」

「夜行(よるのたび)」唐、宋、元、明、清、のうちの宋の時代は平和で、教育は農村にまで届いた。強固な中央集権によって、平和が確保された。最後の皇帝、徽宗(きそう)の崇寧(すうねい)年間、一一〇〇年ごろの、人口は四千六百七十三万四千七百八十四…

【詩】「そして、船はゆく」

「そして、船はゆく」アシェンバハは五十歳の誕生日にとるものもとりあえず旅に出る。船旅。ボルヘスは「船旅」という題の詩の第一行目に、「海は無数の剣であり、満ち足りた貧困である。」と書いている。はて、アシェンバハにとって、海とはなにか?作者の…

【詩】「Baby, You're a Rich Man」

「Baby, You're a Rich Man」Now.In the zoo.もともとこのFace Bookは、アイビーリーグの「マッチングアプリ」そう。いまはやっているマッチングアプリより先にできた。名門大学の男女が知り合うために。それをザッカーバーグが考え出した。いまは三女の父?…

【詩】「ツルゲーネフ」

「ツルゲーネフ」1818年に、中央ロシアに生まれた作家です。家は裕福な地主階級。しかし母親が専制的な性格で、農奴に惨めな生活を強いた。ツルゲーネフは繊細な自然の美のなかに農奴を描き、解放運動にも参加した。ゴーゴリへの追悼文が検閲にひっかかり、…

【詩】「玉鬘」

「玉鬘」恋ひわたる身はそれなれど玉かづらいかなる筋を尋ね来つらむOr I shall live your epitaph to make,Or you survive when I in earth am rotten,From hence your memory death cannot take,ただの髪飾り、月のひかりにくりくりっと動いていま少女の生…

【詩】「ラカンの『エクリ』」

「ラカンの『エクリ』」最初に出てくる、ポーの「盗まれた手紙」論。英語での表現は、The purloined letter.Stolen letterではなく。そこでラカンはオックスフォード辞典をひく。purは古代フランス語の接頭辞、英語のforにあたる。loinもフランス語で、英語…

【詩】「ドゥルーズの『映画』」

「ドゥルーズの『映画』」Les grands auteurs de cinéma nous ont semblé confrontables, non seulment à des peintres, des architectes, des musiciens, mais aussi à des penseurs.Ils pensent avec des images-mouvement, et des images-temps, au lieu …

【詩】「戀」

「戀」生まれてくるのが早すぎた、のか、塚本邦雄は辛くて深い沼のなかで呻吟し、六百番歌わせの批評、詩、小説の一体化した本を作ってしまった。いまでは、LGBTなどもNHKで楽しく歌われている。しかし、家族を持ってしまった氏は、闇に翻弄されるがままにな…

【詩】「革命のエクリチュール」

「革命のエクリチュール」 T.S.エリオットは、ボードレールは、散文の方がよい、と書いている。ボードレールの詩は、その時代には進みすぎて、まだほんとうに理解されなかった──。詩どころか、ボードレールそのひとも理解されなかった。すでに革命ははじまっ…

【詩】「バルト『表徴の帝国』」

「バルト『表徴の帝国』」自室の足下に落ちていた、バルト全集第三巻、ポストイットを引っ張れば、L'Empire des signesひょうちょうのていこくすばらしき訳なり。きごう、というより、むしろ。ひょうちょうのていこく、とくりかえす。ひょうちょう。「テクス…

【詩】「ジュリア・クリステヴァ『詩的言語の革命』」

【詩】「ジュリア・クリステヴァ著『詩的言語の革命』」 完璧な辞書が存在するという 思い違い、 あらゆる知覚、 言語、 抽象的観念 に対して、 それらに対応する 記号を 辞書のうちに見いだしうる という考えは 錯誤であると、 ホワイトヘッドは言っている…

【詩】「若き宣長と源氏というテクスト」

「若き宣長と源氏というテクスト」すでに時は過ぎ、誰も、自由に源氏を読むことはできず、夥しい註釈の森で、十九歳の宣長は、式部を追って、深みに入る。それはちょうど、ニーチェがテクストの森に足を踏み入れたごとく。まずは男に書かせたる物語を、その…

【詩】「ジュリア・クリステヴァ『詩的言語の革命』」

【詩】「ジュリア・クリステヴァ著『詩的言語の革命』」 完璧な辞書が存在するという 思い違い、 あらゆる知覚、 言語、 抽象的観念 に対して、 それらに対応する 記号を 辞書のうちに見いだしうる という考えは 錯誤であると、 ホワイトヘッドは言っている…

【詩】「ジュリア・クリステヴァ『詩的言語の革命』」

【詩】「ジュリア・クリステヴァ著『詩的言語の革命』」 完璧な辞書が存在するという 思い違い、 あらゆる知覚、 言語、 抽象的観念 に対して、 それらに対応する 記号を 辞書のうちに見いだしうる という考えは 錯誤であると、 ホワイトヘッドは言っている…

【詩】「ダンテ」

「ダンテ」うとうとしていたら、ダンテが夢に現れて、日本語で言うのだった──こら、おまえ、わたしの経験によれば、詩の鑑賞はその詩人や仕事について、知らなければ知らないほど、理解できるものなんだ。だからさ、その詩人について、歴史的背景などをよお…

【詩】「梅」

「梅」暮ると明くと目かれぬものを梅の花いつの人間(ま)にうつろひぬらむ (紀貫之)われらが「古今」から学ぶは郷愁、惜しむきもち。死ぬまで繰り返される一年の、その尊さの飽き。梅を女とみて。夜のなかに香しさを堪能する、ここはどこでもない、あなた…

【詩】「異邦人」

「異邦人」メールデセデ、オンテールマン、ドゥマン。サンティマン、ディスタンゲ。文面の素っ気なさが太陽の照り返しにすべての物語がすでに終わったことを告げていた。おれは渋った顔の上司に休暇をもらい、出かけた。どこへ? 老人ホームのある場所へ。そ…

【詩】「パウル・ツェランに会えなくて」

「パウル・ツェランに会えなくて」閾から閾へ、パウル・ツェランを追ってみたが、結局、会えなかった。すでにして、彼はセーヌに身を投げていた。浅そうに見えるセーヌも、溺死するほどに深いのか?T.S.エリオットの男の愛人も水死して、ベンヤミンは服毒自…

【詩】「外典」

「外典」少女と老婆がいっしょに妊娠し、いっしょに産もうね(はぁと)といったハナシは、新訳の外典に記されている。それをレオナルドは、大天使ガブリエルの「告知」として、新しい画材である、油絵の具で描いた。当然、ほかの画家も描いているテーマでは…

【詩】「そしてオーデンに送る手紙」

「そしてオーデンに送る手紙」 夜は遅い、いつものように新年が来て、 静かというには少し残念な…… そばに川が流れておれば、 きみは果報者。 遠さと近さ、 もの音とささやき、 過去の時間がきみのなかで 混じり合うとき、 昔観た芝居の劇そのものではなく …

【詩】「オイディプスあるいは無意識の物語」

「オイディプスあるいは無意識の物語」やさしいフランス語で、『アンチオイディプス』という本は何を言おうとしているのか?「分析」という妄想を、りっぱな「理論」のために使った「物語」を証そうとしている。それは、嘘、嘘の物語。しかし、物語というも…

【詩】「あるいは、反転という名の兎」

「あるいは、反転という名の兎」大きくなり同時に小さくなる上昇であり同時に落下であるいくつもの冒険はたったひとつの冒険であるしかして因果関係は分離されるストア学派的いねむりののちうさ公は山下さんちの裏庭のうさぎ小屋から出されたなんで?売られ…

【詩】「シルト」

「シルト」生は詩から成り立っています。(ボルヘス)私はオルセンナでは最も古い一族の出です。あるとき、「命令」が来て、兵役のために旅立ちます。「命令」はどこから来たのか?この「国」の政治形態は?書きかけた小説。誰が書き始めたのか?その空の棺…

【詩】「マラルメ日記」

「マラルメ日記」やさしそうな題名のもと、やさしそうなテクストの書きようそんな詩を軽蔑するやからがいる。難しい、おしゃれな、知的な詩こそ、詩である、と。隠喩、暗喩、アレゴリー、鏤められたボードレールの墓、あるいは、エドガー・ポーの墓。マラル…

【詩】「猫の名前(Cats Name)」

「猫の名前(Cats Name)」The Naming of Cats is a difficult matter, (T.S.ELIOT)ずいぶんと猫を飼った、名前は忘れた。一匹だけ覚えているのは、ゴドー。飼った時期は、高校時代と、すぐ思い出せる。それより前は、ゴドーなんて思いつきもしない。高一の…

【詩】「寅さん」

「寅さん」寅さんは毎年、映画のはじまりで、どこかから帰ってくる。笠智衆のお寺の坊さんが門前で掃除をしているところに現れ、「ああ、ことしもトラが帰ってきたか」と言わしめる。この、あまりに大衆的すぎる映画を私は何度も見たわけではないが、その「…

【詩】「トルコの地震」

「トルコの地震」宇宙に浮いている球形のなかで起こる異変。おもに、落下──夢よ、すべてを燃え上がらせよ、

【詩】「鴉」

「鴉」かつて鴉という詩を書き、鴉という詩集を出した、それでも鴉はわがベランダに薄くなった石鹸を求めてやってきた、それは死んだ愛犬の生まれ変わりを願うために、京都は常寂光寺へ出かけた日、家人も外国旅行で留守で、誰もいないのをいいことに鴉はベ…

【詩】(無題)

(無題) 「これはこれは、忘れようとして思い出せない」 かつて、漫才の京唄子の相棒、鳳啓助は言うのだった。 漫才がベケットの芝居そっくりであった時代。