現象の奥へ

【詩】「荻生徂徠」

「荻生徂徠」 主君の仇を討った、赤穂の浪人たちに、江戸の街の人々は喝采を送った。 このテロリストたちを無罪放免にすべきだ、という意見もあった。 浪人たちは主君の菩提寺である高輪泉岳寺に身柄を預けられていた。 浅野内匠頭を、即日切腹させたのは徳…

【詩】「adornoの『mahler』」

「adornoの『mahler』」 音楽にウルサイ、とてもウルサイ、アドルノが、マーラーについて書いている本は、 正直言って、なにが書いてあるかわからない。 ただマーラーの交響曲は、ヴィスコンティの『ベニスに死す』や、 市川崑の『四十七人の刺客』のあいだ…

【詩】「William Blake」

「William Blake」 天国のなかに地獄のティールームをつくるもの、 妖精を堕落させ、韻を脳髄のどこか深いところに隠すもの、 赤ん坊とか涙とか娼婦とか虐待とか、 宇宙の忘れ物を届けるもの、 誠実さでひとを不快にさせ、不愉快さで歴史に残る。 この裸の、…

【詩】「あるいは裏切りという名の犬」

「あるいは裏切りという名の犬」 「36(トロントシス)」というのがパリ警視庁の通称、36 QUAI DES ORFEVRES という住所だから。 「まだ」十分痩せている、ジェラール・ドゥパルデューと、 醜男だけど、フレンチの匂い漂う、ダニエル・オートュイユが、 かつ…

【詩】「高木先生」

「高木先生」 うちはビンボーだったのに、母は私が小学一年になったら、絵を習いにいかせた。 小学生には遠い、豊橋駅を右手に左にまがって雑居ビルのなかにある文化ルームという、おそらく市が主催していたいまでいう「カルチャー」に徒歩で通った。 その講…

【詩】「時計じかけのオレンジ」

「時計じかけのオレンジ2」 じたいは「時計じかけのオレンジ」だと、 『ユーラシアニズム』という本の著者が書いていた箇所があって、 ハッと思った、ので、詩の題名にした。 これはアメリカ人ジャーナリストが、 プーチンの野望について分析した本で、邦訳…

【詩】「時計じかけのオレンジ」

「時計じかけのオレンジ」 KGB出身者は市民にもイメージが悪いが、 さいわいなことにトップまでは行かなかった。 代わりに、秘密警察のトップになった。 秘密警察は教会の裏に隠れている。 忠実であることはなによりで、市民の信頼も厚い。 市民とは中流以上…

【詩】「柳」

「柳」 うちはお茶屋で、玄関先に茶箱とその上に計りをおいて、お茶を商っていました。 父母は勤めており、父母が留守のときは、 小学生の私がもっぱらお茶を量り売りしていました。 お茶屋をやったのは、父の実家でお茶を製造していたからです。 「川柳」と…

【詩】「イリアス」

「イリアス」 歌ってくれムーサたちよ、 てな感じで出かけた戦争は、美女を取り返す目的ではなくて、 あらゆる戦争と同じ、略奪だった。 牛を連れ葡萄酒を持ち、 戦地に下りたっても、まずは、神に焼き肉と葡萄酒を捧げ、 兵士たちも喰らうのだった。ああ、…

【詩】「T.S.エリオット」

「T.S.エリオット」 長いあいだ、T.S.エリオットの肉声を聴き続けている。 氏が朗読するCDをiTuneアプリに入れて、何代ものデバイスで聞き続けた。だから、 そらでも、氏の声を再現することができる。 『荒地』という詩集は、日本ではかなり誤解されている、…

【詩】「久女」

「久女」 杉田久女が、立子の独楽と落葉の連作五句を論じている。 独楽を持って寺の境内を上ってくる子どもたちの姿を、 映画のように次々移り変わる五句を、まさに、 映画のようであることを気づかせるように解説している。 そこで私も独楽で遊んだことを思…

【詩】「たゆたって」

「たゆたって」 石川淳「西游日録」は、文学者仲間、 安部公房、江川卓、木村浩と、 パリへ行っててんやわんやの旅行記だが、 ホテルに着いたら失敬なフランス人の若者が部屋に入り込んで勝手にシャワーを使っていた。 そんなエピソードも達筆な書きっぷりに…

【詩】「遺書」

「遺書」 遺書といって思い浮かべるのは、 服毒自殺をした芥川龍之介の枕元にあった遺書である。 自分の全集は岩波から出してください。 とおねだりばかりで、肝心の妻へは、自分の死後の事務的な処理の依頼。 死んだのは、ある夫人と恋仲になり、いろいろ追…

【詩】「椅子」

「椅子」 オクタビオ・パスの、「あらゆる詩に共通する唯一の特徴は、画家の絵や大工の椅子と同じく、人間の作り出したもの、作品であるということである」* という記述を読んで、父が作った椅子を思い出した。 父は「大工の修行をした」というのが得意だっ…

【詩】「Une saison en enfer(地獄での一季節)」

「Une saison en enfer(地獄での一季節)」 そうだ、わたしは、「地獄の季節」を経験したのではなく、 すでに地獄にいて、ひとつの季節を過ごしている。 絶望を喰らい、虚無に詩という仮面をつけて、 砕け散った友情について認めた。 そうだ、知り合ったの…

【詩】「無意識の凝縮」

「無意識の凝縮」 フロイトなのかフロイトでないのか、ラカンなのか、ビンスワンガーなのか。 かつての遠い記憶。むかし、むかし、 アルパネットという、アメリカで軍事利用するための通信システムがあり、 それがいまの「インターネット」のはじまりである…

【詩】「不在との対話」

「不在との対話」 不在との対話を続けてはや、十年。 Oは、いかにして年月を知ったか、われわれにはわからない。 未来の詩人はこのように書いている、 「不在との対話──倦怠と苦悩と絶望がそれを養う」* その詩人も、頭文字をOといい、それは偶然であったが…

【詩】「Alain Robbe-Grilletの『Dans le labyrinthe(迷宮にて)』」

「Alain Robbe-Grilletの『Dans le labyrinthe(迷宮にて)』」 雨、兵士、フランスでは衿に階級章を示さず、 避難所にいて、安全。 子ども、「眠ってるの?」 外部の描写、内部の描写。 クロード・シモンとの違いは、 この「小説」は具体的描写を描きながら…

【詩】「Claude Simonの『Le Palace(ル・パラス)』」

「Claude Simonの『Le Palace(ル・パラス)』」 それは鳩が突然に現れる描写から始まり、人知れず赤ん坊を産む高貴な女性の生理的な状態の想像で終わる。 金井美恵子とか蓮實重彥が表面的に真似をしているかもしれないが、 当のシモンさえもしかしたら、オ…

【詩】「Nathalie Sarraute の『ICI(ここ)』」

「Nathalie Sarraute の『ICI(ここ)』」 Ici(ここ)というのは、当然のことながら名詞ではない、 副詞である。なぜなら、 なんら実態はない。にもかかわらず、サロートは、それ、 について20章も書き続ける──。 人物でも、物でも、記憶でも ないものが、 …

【詩】「茨木のり子」

「茨木のり子」 というひとは、そんなに偉いんですか、 個として立てって、自明なことじゃないですか。1930年生まれのうちの母だって、 戦争が終わった時はうれしかったと言ってますし、 祖母も、竹槍なんかで勝てるわけないと思っていたと言ってます。 べつ…

【詩】「詩人」

「詩人」 生まれてこのかた得た語彙を使い、 ある感覚を信じて展開するのは、整合性のある文章ではなく、きれぎれの 断片。ポオなのかシェークスピアなのか、 それとも、自称映画監督のジジイか 詩人よ、そなたと時との競争は、 はじめから悲惨な結果がわか…

【詩】「新型コロナ・ウイルス」

「新型コロナ・ウイルス」 細胞の突起の形が王冠に似ていたから、スペイン語からそう名づけられた。 昔から存在していたが、「新型」と呼ばれたのはすでに変異していたから。 かといって、生物ではない。 まるで意志があるかのように動く。 しかしきみだって…

【詩】「仮説」

「仮説」 物質とはわれわれにとってイマージュの総体と、かのひとはいふが。 いま宋では月明かり美しい夜がひとの、 心を撓わにゆらしてゐる。 観念論でも実在論でもなく、 イマージュはイマージュとしてそこにある。 事物と表象の、 宇宙は割れて、 恋なの…

【詩】「豚とカツオの鎮魂のためにボードレールを」

「豚とカツオの鎮魂のためにボードレールを」 人間の、しかもジジイのための、心臓移植に使われる心臓を提供させられた豚よ! かわいそうに! やすらかなれ! たって、やすらかにできるわけもない。 一方、焼津では、漁師が捕ったカツオを、魚魚組合関係の業…

【詩】「あるいは裏切りという名の犬」

「あるいは裏切りという名の犬」 題名はフレンチノワールの映画の題だ、ダニエル・オートゥイユという俳優が出ている。 原題は、36 QUAI DES ORFEVRES オルフェーブル河岸36番地、つまり、パリ警視庁の住所。 警視たちが、次期長官の座を争って、どんどん…

【詩】「平家物語」

「平家物語」 平清盛は、2022NHK大河では、松平健が演ずるが、いかにも悪そうな風貌、 対する後白河院、いかにもずるそうな風貌は、もうめちゃくちゃに皺の寄った、西田敏行扮する。 清盛の妻の妹が後白河院とのあいだに産んだ子を天皇とし、清盛の娘を、そ…

【詩】「明月記」

「明月記」 頭上に残る白雪は、なぜか、南極に残された太郎次郎を思わせる。 内の殿上を許されるのが生涯最大の夢、 とは虚しき。 ウイルスはなお大暴れ、しかし、平家は壇ノ浦に消え、 テレビドラマは『鎌倉殿の十三人』。この、 13という数字、いかにもエ…

【詩】「ソシュールの『一般言語学講義』」

「ソシュールの『一般言語学講義』」 それは1916年に出版された、学生たちのノートを参考にして。 ソシュールはそんな本の原稿を書かなかった。 しかしそれは、現在使用されるすべての言語の、 構造をあかした。 ことばには、パロールとラングがあり、 こと…

【詩】「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」

「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」 「若しトルストイが『永遠の良人』を書いたら、この作品は、恐らく二倍の分量になってゐた」 「ドストエフスキイは、前篇的顚末をものの見事に割愛してゐる」 突然の主人公たちの邂逅と重い背景。 この手法を、池…