現象の奥へ

【詩】「お茶と同情」

「お茶と同情」

茶葉は香りよく煎られ
古い映画のタイトルは忘れ
刺客隠れたる茶工場の
わが幼年期の

父はまだ若くして
父性を知らず坂道に
立ち行き方を
迷っている坂道の
上なら港
下なら街

*老去功名意囀疏
獨騎痩馬取長途
孤村到暁猶燈火
知有人家夜讀書

**「中国の詩句は音綴によるものであり、脚韻が踏まれている。しかし、それはさらに、文法的で語彙的な厳密きわまりない対句法を基礎としている。詩句は完全に意味を含み、いっさいの跨りを追放する。従って、《文》を意味する語は、同時に詩句をも示すことになる。」

***「(明治時代)詩といえば、すなわち漢詩を意味し、日本語の詩は、新体詩と呼ばれて区別された」

しかして漱石は、百日間漢詩を作ることを日課とした。

わが遠州のお茶工場は煎られる茶葉の匂いに満ち、
私は梁から吊されたブランコに乗り、
恋人は未来でお茶が注がれるのをじっと
待っている。

*******

*蘇軾「夜行」

**『フランス詩法』(ピエール・ギロー著、窪田般彌訳、白水社クセジュ文庫)より)

***吉川幸次郎漱石詩注』(岩波文庫)より