現象の奥へ

『真実 』──フランスに樹木希林はいない(★)

『真実』(是枝裕和監督、2019年、原題『LA VERITE/THE TRUTH』

 パリの閑静な地区の広い庭のある一軒家に、往年の大女優の自伝出版を祝うため、ニューヨークに住む娘一家が集まって、その娘の父親で、昔の夫なども登場、忠実な秘書や、今の男(当然ジジイ)などをはじめ、おフランス式ごちゃごちゃ、一方、大女優の自伝に重なるような、映画の撮影も進行中で、それは、未来の星から「母」が帰ってきて、その母より老いた娘と交流……といった「SF]だそうな(笑)。ハチャメチャな、ご都合主義の脚本に、大女優の母など、そうそう一般庶民には関係なく、忠実な老いた秘書は、まるで、貴族の召使いのようで……。そんな場所に、大きなの庭のある家があってよかったね、である。
 ここには、是枝監督が題材としていたものは何もなく、『万引き家族』のあの貧しさはなんだったのか? てなことになる。筋立て、台詞、すべて陳腐で、フランス人に呑み込まれ、いいようにされている是枝がいた。
 まあ、こういうお屋敷の庭や部屋などは、それなりに美しく撮られていた。こんな屋敷などにも、芸能界にもなんの関係もない一般庶民の観客が共感する、それは、欺瞞以外の何者でもない。
 すでにオワコンのフランス映画界に見込まれたのは、運の尽き。ご愁傷様。あ、おっさんたちのシンクロナイズド映画は、ひさびさの快作だったな〜。あそこには、今の問題が描かれていたし。悪いけど、この作品のどこに「今」が描かれてますか。相変わらず美しいドヌーブ。それがどーした?