現象の奥へ

『イエスタデイ 』──今年度ベスト3内確実(★★★★★)

『イエスタデイ』(ダニー・ボイル監督、2019年、原題『YESTERDAY』

 主人公に魅力を感じなかったというレビュアーがいた。それは、有色人種であり、あまり顔を知られてない俳優だったから? ダサい有色人種の主人公は、『スラムドッグ$ミリオネア』で、デブ・パテクをスターにした、ダニー・ボイルならではのものである。こういう「無色」に近い主人公に、われわれはだんだん共感していく。もし共感しないのであれば、それは初めから、偏見を持っていたと思われる。そして、ダニー・ボイルなら、映画の魅力の半分は、音楽なのである。もしビートルズを、自分以外誰も知らなかったら? という設定自体、それほど魅力的なものではないかもしれないが、ビートルズの曲全部を、無名の青年が作ったと信じられ、それが人々を驚愕させ、ネット社会に広がっていくさまは小気味よく、まさに現代ならではの映画である。いかにスターが作られていくかを、リアルに見ながら、青年は自分にとって一番大切なものに気づいていく。幼なじみの女性との愛を取る。そして、「ハリー・ポッター……」と口走ると、彼女が、「誰それ?」といい、パソコン画面での「ハリー・ポッター」検索が映し出され、どこかの将軍の名前が一番目に登場する──。いやはや、次は、「ハリー・ポッター」を知っているのは、また自分だけか、というオチ。
 誰もが知っているビートルズのヒット曲の題名の大きなロゴと、曲が、重なり合い場面を開いていく──。それは劇的であり、そういう場面がつながれていく。これこそ、この映画の魅力であり、まさに、映画でなければ味わえない感動である。ダニー・ボイルは、なによりもそれを知り抜いている監督である。ビートルズへのオマージュであるのはもちろんであるが、深い音楽分析でもある。いろいろからんでくるキャラクターも立っている。