現象の奥へ

【詩】「魔の山」

魔の山

病を得てトーマス・マンの、
魔の山』のようなサナトリウムにいる
気分。
サマセット(モーム)に文学案内されて
ラ・ファイエットに行き着けば、
「フランスの詩は凡庸」だけど
「散文には大いに学ばされる」
T・S・エリオットも同様のことを言っている。
ボードレールは散文の方がよい」
しかして魔の山をゆけば、
不思議な夢を見る。
夢とは常に不思議なものなのかもしれないが、
商店の建ち並ぶ街路が真っ暗になり、雷
夫は急いでボーダーコリーの犬を連れて
コンビニに走り込んだ。
あとから私が行こうとすると、
どの店も雨戸が下りていて明かりが消えている。
とまどっていると、犬が二匹近寄ってきた。どれも
私の飼い犬ではなく、似ているが、色が茶色地のまだらになっている。
私は父の車に乗っていて、父は先に降りて帰っていった。
家にたどり着くと、父が料理を作っていた。
壁に取り付けられた数個の電球の一つが点かない。
料理はりっぱにできていてワゴンに載っている。まるで
実家がホテルのようになっている。……
ひさびさ、目覚めた後でもくっきりとしている夢をみて、
豊かな気分に浸った。父は死んでいたが、まだ、
そのへんをさまよっているのかもしれない。そういえば数日前、
父の形見の野球帽を、虫干ししたのだった。
縁の匂いを嗅ぐと、垢の匂いがして、それは父の生体の一部かもしれなかった。愛するでもなく厭うでもなく、
越えなければならない山があるとしたら、
それは、ハンス・カストルプが上っていった山で
名前を
魔の山」という。