現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『ディパーテッド 』──ハリウッドが放つ純文学(★★★★★)

ディパーテッド』(マーティン・スコセッシ監督、2006年、原題『THE DEPARTED』)
2007年1月22日 3時30分

 本作を観て、私はやっと、マーティン・スコセッシという監督のことがわかったような気がする。彼のテーマは人間の心の動きで、その複雑な世界を表現するために、ときに冗長に思われるほどの長さが必要になる。『アビエイター』ではそれが裏目に出たような気がしたが、本作は成功しているように思う。オリジナル作品である、『インファナル・アフェア』と比べるとよくわかるが、『インファナル……』では、刑事とマフィアが入れ替わって潜入しあうという設定に、かなりよりかかっていた。確かにその設定が面白かったからこそ、ハリウッドでリメイクされたのだろうが。
 トニー・レオンも、アンディ・ラウも、悪くはなかったが、スコセッシ版を観てしまうと、その人物描写がいかに「粗かった」かがわかる。
 ディカプリオにトニー・レオンの愁いやセクシーさはないが、こういう状況に追い込まれた人間の気持ちを、まさに、「フロイト」レベルで表現している。しばしば言われるように、天才という言葉がぴったりである。
 また、『インファナル……』では、ほとんど描かれてなかった、マフィアのボス役は、ジャック・ニコルスンによって、これまた、芸術の領域にまで高められている。「下品さ」を芸術にしてしまう俳優、ニコルスン。その大御所の胸を借りて、ディカプリオは存分にその才能を発揮している。
 確かに長いが、その長さは少しも緩むことなく観客を引っ張っていく。瞠目して観るべき一作。