現象の奥へ

『 ドクター・スリープ 』──スリープしてしまうほど怖くない(笑)。(★)

『ドクター・スリープ』(マイク・フラナガン監督、2019年、原作『DOCTOR SLEEP』

 だいたい事情がわかってきた。『シャイニング』の監督キューブリックと、原作者スティーブン・キングは、その思想がまったく相容れない。キングは、子供たちを中心に、心霊的なものを導入して受難や恐怖を描いている。一方、キューブリックは、人間が孤絶された環境で、徐々に狂っていく恐怖を描きたかった。冬の間は、豪雪のため閉鎖となるホテルの管理人として、売れない作家は、好都合だと思って、妻と息子と移り住んだ。いわば、「絶海の孤島」的ホテル。男は静かなホテルでタイプライターを打ちながら、しだいに狂っていく──。その男の見たイリュージョンが、怖さを呼んだ、40年前の「恐怖」。いまや、「孤独」はどこを探してもなく、40年前に嗤われていたゾンビが「生き返り」大活躍!というのが、本作である。
 どこをどう探しても「恐怖」はなく、ただただ、皮肉にもその題名通り、「スリープ」するのみ。え? あ? あれ? ……てなもんである。
 さすがのジャック・ニコルスンも、出てはくれなかったのだろう。彼が出ただけでも、十分に怖かったはずだが、「そっくりさん」では、怖さはさらに遠のくし、興ざめだし、三流映画の証明でもある。伏線なし、想像力の入る余地なし、で、映画は、「そっくりのホテル……なんだろーな、それにしては、あんなにチャチだったっけ?」てな建物に辿り着き、例の双子の女の子やら、「斧」やらなんちゃら「シャイニングの小道具」を出してくる。なあに、これ? ……と思っている間に映画は終わる。その終わり方が、「この続編も絶対に作るぞ〜!」的な終わり方……「それが見えたら終わり」(爆)。
 キューブリックの『シャイニング』に、原作者キングは不満だったというが、映画は原作を再現するためにあるのではないということが、残念ながらわかってなかった。幼児期の思い出かなんだか、子供モノ作家だった(笑)。そういや、『2001年宇宙の旅』は、原作者アーサー・C・クラークは、「映画と同時に執筆していた」という。やはり歴史に残っている作家は違った。こんな映画に出演して、ユアン・マクレガーも男を落としたナ。