現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『ダークナイト 』──ヒーロー(英雄)からナイト(騎士)へ(★★★★★)

●ここから、あの「ジョーカー」が生まれても、まったく不自然ではない。


ダークナイト 』(クリストファー・ノーラン監督、2008年、原題『THE DARK KNIGHT』)
2008年8月24日 17時36分

 最初、題名『ダークナイト』の「ナイト」は、夜のことだと思っていた。しかし、本作の最後で、それが「ナイト」(騎士)であることを知って、うなった。これは、ただのコミックの映画化から、本格的な作品へ脱皮する意志を表明したものだ。
 舞台となるゴッサム・シティも、前作まではどこか作り物めいた、ドイツ表現主義を思わせるような暗い街であったが、今回は、ニューヨークにもよく似た明るく近代的な、十分にリアル感のある都市である。
 その都市を舞台に、のっけから、ハイスピードで「事件」は起こる。
 ハイテンポのなかに、超豪華俳優陣を投じて「毎度お馴染み」のストーリーが展開される。
 見るべきものは、もはや、お定まりの「教訓」ではない。コミックのヒーローなど誰も信じない。富豪の主人公を支える人々は、端正な生活を維持してくれる執事、究極のハイテク技術を提供してくれる人物、警察組織の良心……。それらに支えられてもなも、簡単には取り押さえることのできない「悪」がある。それは、人の心……?
 役者が勢揃いした。広い肩幅の若いジョーカーもいいが、なによりバットマン役のクリスチャン・ベイルには気品がある。こういう気品は常々の生活もまた高貴なものでないと出てこないものだろう。そして、バットマン役にはそれが必要だ。
 本作で、バットマンは、コミックのヒーローからナイト(騎士)への変身をとげる。いかに? それはこの長大な作品を見るしかない。