現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『聖杯たちの騎士 』──「ばれ」るようなネタなし(笑)(★)

● 本レビューで貶した俳優さんたちは、さすが一流、「その後」、りっぱに蘇ってます。それでこそプロ。とくに、クリスチャン・ベールは、「スター」ではなく、「俳優」であることを主張。『フェラーリ V.S.フォード』が楽しみである。

『聖杯たちの騎士 』(テレンス・マリック監督、2015年、原題『KNIGHT OF CUPS』
2017年1月6日 1時52分

クリスチャン・ベイルケイト・ブランシェットナタリー・ポートマンという、豪華キャストにつられて、例のあの監督とはわかっていたけど、儚い期待をかけてみたけど、やっぱり〜、でした。
 こういう、観念的で、いっこうに深まらない映画を、あれこれ、ご大層な抽象的言辞を弄して褒め称える人々は、プロの映画評論家から、アマのレビュアーまで、まったくご愁傷様としか言いようがない。たとえば、ゴダールがあれこれ言われても、そこには、他の追随を許さない、洗練されつくしたカットが存在する。しかし、この映画は、『ツリー・オブ・ライフ』の自己模倣で、ただただ、水とカメラが戯れているだけで、いっこうに深まらない。
 物語は、題名にあるように、タロットカードと、アーサー王伝説でも、組み込んでいるのか、戯曲の『ペール・ギュント』とか(やりましたよ、演劇科ですから(笑))、いろいろ「意味ありげな」エピソードを「ほのめかして」はいるが、全部、ほのめかしだけ(笑)。
 アーサー王の妻、グイネビアに横恋慕の騎士、ランスロットを思わせる、ハリウッドで成功した脚本家役のクリスチャン・ベイルが、いろいろな女性に導かれていく、という筋立てだと宣伝にあったが、「有名女優」は、ブランシェットとポートマンだけで、ほかはよくわからない女優。ゆえに、この二人のみが重要な役で、ブランシェットは、職業が医師の(元?)妻、ポートマンは恋人だが人妻、というのが、「なんとなく」わかる。そして、終盤、ポートマンが、例の真に迫った演技で大泣きしながらベイルに訴える、「妊娠してるの、夫(年寄りらしい=アーサー王?)の子どもか、あなたの子どもか、わからない」。ばーか。避妊してなかったのか? そういう結果になることは、大いに予測できたじゃないか!
 ってな、ハナシなんです、結局。あと、ベイルと、弟、父親との軋轢も「ほのめかされる」が、こちらも、たまに挟まれる台詞でわかる程度で、全員、水中のコンブのように、映像の海の中を揺れてるだけ(うーん! すばらしい表現(笑))。
 結局、どういう映画だったかと思い返せば、妙にスリムになって、わりあいハンサムなクリスチャン・ベイルが、アルマーニのスーツを着てさまよってるだけって映画(笑)。
 こんな映画に出演したことによって、ベイル、ブランシェット、ポートマンは、その俳優的価値を大いに下げたと思うがな。