現象の奥へ

【詩】「をじさま、お早うございます。と、金魚が言う」

「をじさま、お早うございます。と、金魚が言う」

 

小さい花にくちづけをしたら、小さい声でぼくに言ったよ、おじさんあなたは、やさしいひとね、
なんて歌があったが、金魚が口をきいたのだから
驚いた。天はまだ朝ではなく
隠喩が星のように
私を見下ろしている。私はをじさん、ではなく、をばさん。
をばさまは、ひょっとして、山下茶店のお嬢さん?
隠喩がそのように話しかけてきた、
天の遠くから
お嬢さん、だなんて……たしかに、両親は、共働きのかたわら、
山下茶店なる店を開いておりました。
なぜって、父の実家が静岡県でお茶工場を営んでいたからです。
それで豊橋で所帯を持っても、お茶を分けてもらっていたんでしょうかね。そのうち、市内の卸屋さんで分けてもらうようになりました。
小学生の私はたびたび接客をして、
「川柳100グラム」と言われても、100グラムきっちりだと
なんかせこいようで、30グラムほど余分に
お茶の袋に入れていたように思います。
それだと、そのお茶のすべてが売れたとき、
もうけがあるのかないのか。
所詮、商売には適しておりませんでした。両親も私も。あれから
長い年月が経って、そう、
隠喩も夜のように流れて、いま、
金魚がしゃべる本を開いたしだいです。
オデュッセイア』では、犬がしゃべり、
『ミスター・エド』では馬がしゃべり、また
江戸時代には、犬がしゃべるとのウワサがたった。
「一昼夜かけて礼拝堂で騎士の祈りをするのさ、騎士になるために」と、
隠喩は言った。
knight(騎士)は、night(夜)の隠喩だったに違いない。なぜなら、こころに生涯愛し抜く恋人を持っている。


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