現象の奥へ

『容疑者、ホアキン・フェニックス』──クサい物語回避の知的作品(★★★★★)

『容疑者、ホアキン・フェニックス』 (ケイシー・アフレック監督、2010年、原題『I'M STILL HERE』)

 そう、確かに、10年ほど前、ホアキン・フェニックスが俳優を引退するという「ニュース」が、マジでマスコミを駆け巡った。その「真偽」が本作だった。当時観ていたら、まあ……というか、客が入るのかどうか完全に疑問でしたねー。「あれから10年」、晴れてアカデミー賞ほか、あらゆる賞を総なめにした今だからこそ、再び公開とあいなったのでしょう。まー、どんな前衛映画に慣れている観客も、この映画にはお口あんぐりでしょう。しかも、「これがホアキンのほんとうの姿だ」と信じ込んでしまう人々も多かったと思います。怒り出す人もいると思います。しかし、ここまでダーティーな姿を晒せる俳優がどこにいます? これは、もうすでにして、「ジョーカーを含んでいた」としか思えない。言葉は汚いワ、クスリはやるワ、性格は悪いワ、えげつないワ、態度は悪いワ、おまけに、娼婦まで呼んじゃっての、乱痴気騒ぎで、「くそー、早く、女のケツの穴の匂いが嗅ぎたいよ!」って、マジで何回も言ってネットで二人の女を選び、実際「ケツの穴の匂い」フェチなんです(映画では、ですよ(笑)!)。そして、「おまえの顔にクソしてやる!」も連発し、事実、言われた相手(いつもいっしょにいる友だち)の方が、ホアキンが寝ている最中に、マジで、「クソしちゃうんです」(爆)。で、気がついたホアキンは、「な、なにをするんだ!」と洗面所に飛び込んでゲーゲーやるんです。
 ラッパーになるとか言って、大物のラッパーでプロデューサーのディディに頼み込みに行くんですけど。結局、嫌がられる。というのも、歌を聴けばわかるとおり、下手なんです(爆)。とてもプロなんかでやっていけるものではない。このラップ(のようなものを聴けば)、俳優辞めるも、ウソとわかるんです(笑)。
 しかしまー、おそらく実像は、アカデミー賞の挨拶に現れていたとおり、禁欲的なナチュラリストで、監督をした親友の、ケイシー・アフレックも、厳しいビーガンというから、二人の実生活は、この映画と真逆なものだとは思います。それにしても、ナタリー・ポートマン、ジャック・ニコルスン、ジョン・トラボルタ、大スターたちをここまで集めた「人徳」は、やはりホアキン・フェニックスと、ケイシー・アフレックのものでしょう。なんで、こんな映画を撮ったかった? そりゃ、世界がクソだから(笑)。
 原題は、『I'M STILL HERE』。子供時代に、父と兄弟と、パナマだかの谷川で遊んだシーンから始まって、そこへ帰って行く。結局、美しい魂の映画で終わるんです。おそらく、二人の知性が、クサい物語を回避しているのでしょう。