現象の奥へ

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン 』──素直に賞賛すべき(★★★★★)

ザ・ピーナッツバター・ファルコン 』(タイラー・ニルソン マイケル・シュワルツ 監督、2019年、原題『THE PEANUT BUTTER FALCON』)

ダウン症という「病気」に大いなる誤解があるようだ。ダウン症はいわゆる「知的障害」ではない。染色体異常によって、健常な人間と、見かけや言動が少々違っているのだ。しかし、性格は素直な人が多く、それが、本作の主演俳優、ザック・ゴッツァーゲンが、「映画スターになりたい」と夢を話し、ほかの仲間が脚本を書き、映画化したのが本作だ。その素直さがそのまま出た作りになっている。マーク・トゥエインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を彷彿させ、孤独な人間同士が温かな「家族」を作っていく物語は、あっさりとうまうできていると思う。ダウン症の俳優は、『八日目』で、ダニエル・オートゥイユと共演した、ベルギーの、パスカル・デュケンヌを思わせる。
 一時間半の「小品」の、こういった作品と、大スター使い放題の、ハリウッド大作などと比べて、物足りないというのは、ないものねだりであろう。
 また、アメリカ人にとって、「ピーナツバター」は、日本人にとって、「梅干し」みたいなものなのである。そして、『ハックルベリー』から、アメリカの近代小説は始まったと、ヘミングウェイは言っている。見捨てられた子供たちにとっては、冒険こそが夢を叶える手段なのだ。
 ダコタ・ジョンソンの清楚な美貌は、殺伐した風景にほのかな明かりを添えている。彼女に難癖をつける向きは、嫉妬心からだろうか(笑)?