現象の奥へ

『スキャンダル 』──ジョン・リスゴー、セクハラオヤジになる(★★)

『スキャンダル』(ジェイ・ローチ監督、2019年、原題『BOMBSHELL』)

 のっけから身内のことで恐縮ですが、今年89歳になる母は、30代から70代までラベルなどの印刷会社に勤めていたましたが、同僚で私の同級生の父親だったHさんは、Kさんという若い女の子の体をしょっちゅう触っては、「いいじゃんかー、えへえへえへ……」と言っていたそうです。まーかれこれ40年くらいのハナシですかね。その頃は、当然「セクハラ」なるコトバもなければ、概念すらなかった。こういうことは、「やーねー」ですまされてしまっていた。それが、アメリカで、60年代のウーマンリブあたりから、女性差別のまなざしが厳しくなった。
 今、社会的事件としてのセクハラは、すでにピークをすぎて、さまざまなバイアス、性別、年齢、容姿、出自……などなどが問題化され様相は複雑化している。
 本作は、一見、社会派風ではありながら、そのドギツさを楽しんでいる映画である。なんせ、あの下ネタ満載の『オースティン・パワーズ』の監督ですから。で、今回も、実際の行為というよりは、コトバで下ネタ満載で、とくに、アメリカ人は、フェラチオがすきなんだなーと思わせられます。セックス話になると必ずと言っていいほど出てくる。しかし、日本の映画には皆無と言っていいくらいです。それに、あちらの女性は、かわいいとか美しいというより、まずセクシーであることを最重要視していますから、当然肌は露出気味になる。それで、セクハラもないもんだ、ってのは、男性でなくても言ってしまう(笑)。それに出世をほのめかしての要求は、日本のTBS記者のレイプ事件と違って、イヤならそこから逃げればいいのだ。で、まー、ニコール・キッドマンのお局的キャスターが、解雇された仕返しに仕組んで(CEOとの会話を一年ぶんテープに取っていた)、勝ったというハナシである。
 その、デブデブでいかにも嫌らしげなオヤジの役を、かつては、『ガープの世界』で、性転換したバスケ選手を演じて評価された、ジョン・リスゴーが演じている。どう考えても損な役である。しかし役者魂はこういうのを喜ぶのである。
 三人のちがう世代のキャスターのなかの真ん中の世代にあたる、シャーリーズ・セロンは、そのメークだけがこないだのアカデミー賞で賞を取ったのだが(日本人のツジ氏)、まったく本人とは思えない。すごい美人のように言われるけど、素は意外と地味なのではないかと思う。だから、メイクで、美しくも、醜くもなれる。しかし、声が悪い。彼女のナレーションから始まり、長々と続くが、これこそ聞いてられない。一番若い、これからメインキャスターを狙う社員役のマーゴット・ロビーは、「最新セクハラ犠牲者」であるが、年が若いこともあって、目鼻立ちもはっきりして、美人だが、どうも好きになれない顔と雰囲気である。陰影とか深みがない、まんまな感じでいつも映画に出てくる。つまり、大味ということか。
 で、まあ、「アメリカセクハラどぎつ物語」を楽しんでくださいって映画ですかね。どーせ、保守派のテレビ局のハナシで、女性たちは、それを承知で入社しているのですから。
 しかし、私としては、こういう社会派のオブラートに包まれた作品より、『オースチンパワーズ』の下ネタ満載丸出しの方がよかったな。『トロンボ』もよかったけどね。「そぞろ歩きは軟派でも〜心にゃ硬派の血が通う〜♪」ってね。本作は、真逆ですね(笑)。