現象の奥へ

『PMC:ザ・バンカー』──「やさしくなければ生きている価値はない」(★★★★★)

『PMC:ザ・バンカー』 (キム・ビョンウ監督、2018年、原題『TAKE POINT/PMC: THE BUNKER』)

 2020年、北朝鮮がすきな「日本人」はいない、と思われる。本作にあがっているレビュアーのうち、一人として、「北朝鮮」という言葉を書いていない。それをはなから排除して、作品の不完全さにモンクをつけている。しかし、本作は、まず、北朝鮮を抜きにしては語れない。というのは、場所は、韓国と北朝鮮軍事境界線の地下であり、主にそこしか描かれていない。すべては、そこに据えられたモニターの切り替えによって、物語が構成されていく。ゆえに、カメラは、そこに設置されたカメラのモニターが、映画の空間を描き出していく。そして、そのモニターは、おもに主人公の、傭兵隊長のエイハブ(韓国人の傭兵隊長の名前だが、おそらく偽名で、この名前は、『白鯨』の船長の名前である)によって切り替えられるのだから、ブレるのはあたりまえで、それは意識的表現であり、リアリティがあるのだが、これにモンクをつけているレビュアーもひとりではなかった。といっても、レビュアー(Yahoo!映画)も極端に少なく、平均点は、★3なのに、レビュアーはすべて、私が今書こうしている時点で、レビュアーは、4人ほどで、すべてが、★一つか二つ。つまり平均点以下で、★を多くつけて投稿している人々は、レビューを書いていない人々である。なぜレビューを書かないのか──? 『スターウォーズ』なら、もっと気軽に書くやろがー(笑)。
 にもかかわらず、本編は、傑作の類に入る。2024年を舞台にした近未来ハードボイルドながら、その感じを実にリアルに描きかつ、これまであまり描かれていない場面、物語が描かれている。それは、モニターを介して、医師の指示を仰ぎながら、素人が行う、一種の心臓手術で、これによって、死んだはずの北朝鮮の最高指導者、金正恩……じゃなくて、「キング」と呼ばれる男が生き返る。このあたりは、米国大統領ととも、フィクションの名前が使われている。ストーリーとしては、CIAが傭兵会社に、北朝鮮の最高指導者を生きたまま連れ出すように依頼する。敵国、中国に対する作戦のためである。このあたり、複雑な筋書きがごちゃごちゃ語られる。傭兵たちのなかには、裏切り者もいる。CIAも裏切る。
 2024年といえば、4年後で、今と状況はそれほど変わってないと思われるが、指導者、国と国との関係はそんなふうになっている。
 これは、北朝鮮の最高指導者に付いていた、医師と、韓国人の、ワケあり傭兵隊長との友情物語であり、その結びつきは、人間と人間の結びつきであり、とりわけ、韓国人傭兵隊長を演じた、スターの、ハ・ジョンウ、ではなく、北朝鮮側の医師がかっこいいのである。安倍晋三たらが、すべての日本人を代表していないように、金正恩がすべての北朝鮮人を代表しているわけではないのに、あのイメージによって北朝鮮人をはなから排除している日本人は多い。二人の主役は、「おい、韓国人」「おい、北朝鮮人」と、映画の中で呼び合う。そして、互いを最後まで信頼し、「助けるのに、相手が誰だかなんて考えるか」と、北朝鮮人医師役の、イ・ソンギュンが言い、伏線がみごとに回収される。人間的なものの勝利で終わる。音楽もタイトルバックも、新しくセンスがいい。
 もちろん、北朝鮮の俳優など使えるわけがなく、北朝鮮人役も、韓国人であるが、はじめ、CIA相手の物語としてスタートした本作は、ハ・ジョンウの、流暢な英語で進められるが、北朝鮮人が現れると、朝鮮語に変わる。それがまた妙にかっこいい。韓国映画にもかかわらず、北朝鮮人の描き方がすばらしい。
 それに比べて、CIAの「窓口」になる幹部の女といい、傭兵たちの白人といい、白人俳優はひとりとしてスターはおらず、演技力もいまいちであることが見てとれる。そういう俳優しか都合できなかったのかもしれない。にもかかわらず、なんとか、エキゾチシズムを売ることもなく、ハリウッドにも媚びることなく、第一級のエンターテインメントを作り上げたといえる。

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註:PMCとは、private military company の略で、民間軍事会社(傭兵会社)のこと。
バンカーは、地下要塞基地のこと。