現象の奥へ

【詩】「賢木(さかき)」

「賢木(さかき)」

 
きみが私のなかに見るものは小暗い森、

妖精もいなければこびともいず小鳩も小鳥も消えてしまった、

誰かが魔法をかけたのだ、

いまは時間だけが凝結しひとの声さえ霊となりはてた次元。

私のなかにきみが見るものは物語の切れ端のそのまたきれはし、

闇さえまだ明るさをもっている東西南北、

すべての棺を集めて魔女たちが嗚咽する姿、

生ほど忌まわしいものはないと光はささやく。

私のなかにきみが見るものは焔の分身、

死の床に横たわっているのは私、

おのれの夢の灰に埋もれ、青春だと思っていたものが、

永遠と差し違えて見せられる焔だ。

 神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへておれるさか木ぞ

 少女子(をとめこ)があたりと思へばさか木葉の香をなつかしみおれるさか木ぞ