「賢木(さかき)」
きみが私のなかに見るものは小暗い森、
妖精もいなければこびともいず小鳩も小鳥も消えてしまった、
誰かが魔法をかけたのだ、
いまは時間だけが凝結しひとの声さえ霊となりはてた次元。
私のなかにきみが見るものは物語の切れ端のそのまたきれはし、
闇さえまだ明るさをもっている東西南北、
すべての棺を集めて魔女たちが嗚咽する姿、
生ほど忌まわしいものはないと光はささやく。
私のなかにきみが見るものは焔の分身、
死の床に横たわっているのは私、
おのれの夢の灰に埋もれ、青春だと思っていたものが、
永遠と差し違えて見せられる焔だ。
神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへておれるさか木ぞ
少女子(をとめこ)があたりと思へばさか木葉の香をなつかしみおれるさか木ぞ