現象の奥へ

【詩】「松風(まつかぜ)」

「松風(まつかぜ)」
 
お祖父ちゃんたちは遠州の家をうっぱらって弁天島に出てきた、
そこには松ばやしがあって、たえず、松風が吹いていた。
松風には音があって、明石の君の母尼は、懐かしいセレナーデのように、京でも聴くのだった。
複雑な源氏の婚姻関係、アラブの王様もびっくり、本人たちは結構真面目で。
式部はなぜに、そんな貴族たちの性愛を事細かに書いたのか。
いまは松風がだけが鳴って、人類は絶えた。
いずれ「収束する」という夢を見ていた、
自分だけは伝染しないと信じていた、だが、すべて思い違いだった。
すでにして人間の時代は終わって、
ウイルスの時代がやってきていた。
変異につぐ変異、収束したかに見えた地域にもまた発生する。
一時中止となった仕事は二度と再会されなかった。
 身をかへてひとりかへれる山ざとに聞きしににたる松風ぞふく
 ふる里に見しよのともをこひわびてさえづることをたれかわくらん