現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 』──帝国主義者が魅力的では困る(笑)

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 』( ジョー・ライト監督、2017年、原題『DARKEST HOUR』 
2018年4月5日 0時08分

かつて日本には「バカヤロー」って言って国会を解散した首相がいたが、なんかそんなヒトを思い出したナ。「貧乏人は麦を食え」って言った首相もいた。「天の声はヘンな声」と言った首相もいた。チャーチルも、逆説がお得意の名物首相。しかし、なんで、わざわざ、特殊メイクをしてまで、オールドマンが演じなければならないわけ? ほかにチャーチルに似たような演技派俳優はいくらもいそうなイギリスである。確かにオールドマンは魅力的な男である。評価の高い観客は、彼が演じてると思うだけでもうカンドーなのだろう。そう、私もオールドマンのファンだから、確かにへんなジジイにしては魅力的だった。しかし、それが困るのだ。チャーチルは、「インド人は嫌い」と言って、当時イギリスの植民地だったインド、ベンガル地区への食糧供給を拒否し続け、300万人を餓死させたと言われている。ダンケルクで自国の兵士何十万かは救ったそうだが。映画でも、嫌われた理由を、首相になる前に、作戦の失敗によって何百万の若者を無駄に死に追いやったと糾弾されている。

 「どんな犠牲を払おうとも国を救うことが重要だ」という、映画でもたびたび出てきたチャーチルの考えだが、アジア大西洋戦争時に、昭和天皇東条英機以下の軍部もそう言っていた。少しの違いは、イギリスは侵略される側だったが、日本は侵略する側だった。戦況は悪いのに、よいように見せかけたというのも、似たような手法である。だいたい、庶民の考えを知ろうと、たまたま乗った地下鉄の一両に、あんなに意見ぴったりの人々が乗っているだろうか?

 監督のジョー・ライトは、これまで、歴史的好編を製作してきたが、今回の作品は、脚本にもダレた点があり、寝落ちしてしまった(笑)。音楽、とくに、演説で会場の意見を転換させたチャーチルが、「紙吹雪」のなか颯爽と(?)去っていくエンディングの音楽は劇的でなかなかよかった。