現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『メッセージ』──ソシュールもびっくり(笑)

『メッセージ』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2016年、原題『ARRIVAL』)
2017年5月21日 22時02分

 地球外から「宇宙人」が来た場合、スピルバーグの『未知との遭遇』までは、ひたすら「侵略者」で、いかに戦うかが問題であった。しかし、スピルバーグが、「宇宙人」は、地球人から見たら「異形」なれど、友好の気持ちがあり、コミュニケート可能であることを示した。さらに驚いたことに、過去に死亡したと思われた人々がおおぜい、宇宙船からぞろぞろと戻って来た──。本作は、これとほぼ同一の「物語」を当てている。「未知との遭遇」の場合のコミュニケート手段は、「音階」であった。しかし本作は、そう簡単にはいかず、一流言語学者が、軍から呼び出される。この言語学者を、大きな眼差しが「口ほどにものをいう」、やさしいイメージのエイミー・アダムスが演じている。
 この学者が、実に、ソシュール然とした知性と論理と技術を持っていて、それを駆使して、「未確認飛来生物」とコンタクトするのである。この「未確認飛来生物」の、乗り物(『未知との遭遇』では、すばらしく美しい円盤であったが)、姿、言語の表現方法が、まったくのオリジナルで度肝を抜く。
 そして、やはり『未知との遭遇』のように、身近な死者とも関係していることをほのめかす。そして、なんとなく、時間のとらえ方や映像が、タルコフスキー惑星ソラリス』も彷彿とさせる。おそらくは、それら、SFの名作へのオマージュでもあるのだろう。
 さて、本作の監督、ドゥニ・ヴィルヌーブといえば、『プリズナー』から始まって、『複製された男』、『ボーダーライン』と、たて続けに、意欲作を発表し、それらはすべて観て、いちいちウナらされてきたが、本作はその頂点にあるように思われる。ゆえに、次回作『ブレードランナー2049』も、期待される。しかし、その予告篇を観たかぎりでは、本作の方がすぐれているようにも思われる。なんせ、オリジナル『ブレードランナー』に頼りすぎているような気もするからだ。