現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『万引き家族』──確信犯的

万引き家族』( 是枝裕和監督、2018年、英題『SHOPLIFTERS)

 

 本作は、是枝作品としては決して最上の作とはいえず、かつ、カンヌ映画祭で、柳楽優弥に14歳で最年少主演男優賞をもたらした、『誰も知らない』の、自己模倣作品と言える。テーマ的には一歩も進んでおらず、『誰も知らない』が発表された2004年には、この種のテーマはまだ衝撃的であったが、2018年6月現在、本作の5歳の少女りん=じゅり、の行く末が、現実の虐待事件の被害者の5歳の少女の「日記」「もうゆるして」と重なり、ついに、現実の方が映画を超えてしまった。そんな現実を、こうした14年前と変わらない問題意識で、カンヌ映画祭の2018年の審査委員長(の好みが審査を大きく左右する)ケイト・ブランシェットをはじめ、レア・セドゥなどの「お嬢さま」女優たちが、北朝鮮の風俗を覗くがごとく、バッチイ家にぐだぐだ犯罪を犯しながら暮らす、疑似家族の生態を見たなら、なんらかの衝撃は受けるだろう。以前、カンヌ映画祭で、パルムドール(最高賞)をとったとかいう、カンボジアの映画を観たことがあるが、そのあまりのひどさに辟易したことがあった。来世信仰と、川やジャングルがゆらゆら揺れているだけの映画であったと記憶する。

 フランスの大衆紙フィガロ』が、日本政府は是枝の受賞を無視している、てな記事を載せたが、ノーベル文学賞を取った、イギリス人のkazuo Ishiguroも同様の日本人としてカウントしているのが、なんだかな〜(笑)であった。あわてたかどうか、文化庁だかが祝賀会を開いてやると言ったのを、是枝は、「公権力とは距離を取る」と拒否。しかし、「カンヌ映画祭」もフランスの「国家権力」が支援しているお祭りなんですけどね(笑)。

 さて、本作であるが、まー、役者は魅せますね。70代から80代の老婆なら、何十種類も描き分けることのできる樹木希林の、「今度の老婆は?」という興味もあるし、毎度観ていて安心する演技力である。彼女が是枝を支えているといってもいいくらいだ。彼女の是枝作品ですきなのは、『歩いても歩いても』(2007年)である。樹木希林と原田良雄の夫婦は、なにごともなかったかのように過ごしてきたが、希林はただの老婆ではなく、夫の過去の過ちに固執していた色香の片鱗が作品全体を覆うオトナな作品であった。岡田准一が父の仇を捜す浪人になって長屋に住み、長屋の人々と交流する時代劇『花よりもなほ』(2006年)もほのぼのとしたものと皮肉が効いていて将来性を感じさせるものだった。子ども中心の希望を描いた『奇跡』(2011年)すがすがしくユニークだった。それがある時期から、通俗に引きずられ、「受け」を狙うようになった感がある。『三度目の殺人』はその最たるものであった。

 先にも書いたように、本作は名優を揃え、テーマ的にもイケると思ったのだろうが、現実が先を超してしまった。さて、どうする?