現象の奥へ

『インティマシー/親密 』──あらゆる意味でほんもののセックス(★★★★★)

インティマシー/親密 』(パトリス・シェロー監督、2000年、原題『INTIMACY』)

 お互いに名前さえ知らない男女が、週に一度、水曜に、男の住まいで、性交のみを繰り返す。まるで『ラスト・タンゴ・イン・パリ』だが、中身はだいぶ違う。男は中年(といっても、当時40歳のマーク・ライランスが演じている)のバーテンダー、女は、小劇場で上演するような演劇グループの女優で、素人に演技も教えている。だが、二人は、互いにそれを知らない。どのように知り合ったのかは、描かれていないが、若くない女(という設定だが、この女を演じるケリー・フォックスは、当時34歳である)が男のアパートのような(小さい戸建てのような)住まいを訪れるところから始まる。この訪問は暗黙の了解のように、男は狭い階段の二階にある自室に案内する。「コーヒー?」などとおざなりの会話を交わしたあと、すぐにセックスの行動に入るが、これは、いわゆる、「商売」ではない。真剣にセックスする。その真剣さは、どんな「やらせ」より美しい。これは、大島渚なら鳴り物入りで宣伝する、いわゆる「本番」である。その後、何度も逢瀬を重ねるが、ただセックスするのみである。しかしそれによって、二人の心がしだいに「インティマシー(親密)」になっていくのがわかる。男には、別れた妻子があり、女には、現実の夫と息子がいた。
 しだいに惹かれていく男女。これを「愛」というのか、「恋」というのか。このあたりを、舞台の演出家としては、すでにフランスの巨匠であった、パトリス・シェローは、演劇的に描いているが、これは、よい意味である。映画のように、荒っぽい心理描写ではない。しかし、舞台のように、一定方向からしか見られないわけでもない。あらゆる角度から男女の表情と肉体を撮し、インティマシーを表現しきる。
 本編は、観ている人が非常に少ないが、私は二十年前に劇場で観て、非常に感心し、このたびDVDを入手して、じっくりと観てみた。本編では、『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のような、おためごかしの性描写はない。「本番」である。この映画には、「本番」が必要だった。なぜなら、なにかを演じるのが得意な女優が、演じることのできない、ほんとうの心、それを「演じ」なければならないのだから、うその演技では成立しないのである。
 そこのところを、ケリー・フォックスはよく理解し、また、マーク・ライランスも理解していた。
 観た人が少ないゆえに、Yahoo!映画での評価も低いが、本作は、ベルリン映画祭で、金熊賞と、女優賞を獲得している。また、マーク・ライランスは、15年後、スピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ』で、アカデミー助演男優賞を獲得する。
 マリアンヌ・フェイスフルが、ケリー・フォックスの指導を受ける素人女優であり、彼女へ人生の助言を与える親友として出演しているが、当時54歳ながら、もっと老けてみえて、演技も下手だな〜(笑)。ハスキーな声と物言いは、かわいいけど。
 エンドロールに流れる、雰囲気あるジャズっぽい歌声は、デヴィッド・ボウイだった。

 

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