現象の奥へ

『デッド・ドント・ダイ 』──『未知との遭遇』×『バタリアン』(★★★★★)

『デッド・ドント・ダイ 』(ジム・ジャームッシュ監督、2019年、原題『THE DEAD DON'T DIE』)

 ジム・ジャームッシュの映画に、マジを期待してはいけない。「どうせ」、なにかのパロディ&メタなのである。今回は、スピルバーグの『未知との遭遇』の、あの名場面が再現されている。アレまで作って。1977年、アレを見た時、われわれの時代は変わった。次に、1985年に『バタリアン』を見た時、われわれの時代は変わった。昔は、「ゾンビ」とは言わなかった。リビング・デッドと言われた。そして、なぜか、バタリアンは、「オバタリアン」などという言葉に変化した(笑)。日本ではね。
 今回、笑えるのは、アダム・ドライヴァーの自動車(でっかい体にミニ・ミニ自動車がまた笑わせるが)のキーを付けているホルダーが、『スター・ウォーズ』のだった(笑)。しかも、ドライヴァーは、「まずい結末」と何度もつぶやく。警察署長のビル・マーレイに、「なんで結末を知ってるんだ?」と問われると、「ジムが脚本を見せてくれた」と答える。しかし、自分たちのほんとうの結末については、よくわからないようだった。
 大丈夫、スピルバーグの『未知との遭遇』では、死者は戻ってくる、のだった。あと、葬儀屋、スウィントンの刀の場面は、『キル・ビル』とか。まー、とにかく、突っ込めるだけ突っ込んだ映画である。しかし、いつものオフ・ビートは崩さず、音楽だけはフレッシュである。結局のところ、場所もほとんど動いてなくて、見せ場は、細かいディテールである。昔からそういうスタイルなのである。
 今回は、やはり、スピルバーグのアレを、「いま」風にリニューアルして見せたところが、白眉で、これだけで、★が5つの価値がある。
 ただのゾンビ映画と見た向きには、当然、どこが面白いのかわからない映画となる。はい、ご愁傷さま。どーせ、ジャームッシュはマジな評価は望んでない。『リーサル・ウェポン』で硬派な刑事を演じた、ダニー・グローバーが、お人好しのジッサマを演じていたのが、ほんとーは、いちばん、笑えた。