現象の奥へ

『一度も撃ってません』──半年間思い出し笑い必至のごきげんな映画(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『一度も撃ってません』(阪本順治監督、 2019年)


 アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』もそうだったが、映画と演劇というものが対立するものではなくて、実は境目のないものであることを証明している映画が近年出てきているが、本作もそのひとつ。

 石橋蓮司といえば、若い頃は、映画やテレビではその風貌からチンピラ役や極悪人(笑))の役が多い印象であったが、まっとうな舞台人であった。そのまっとうな活動が、シニアといわれる年代になって成熟した感じである。その石橋蓮司阪本順治監督とあらば、これはなにがなんでも駆けつけねばなるまい。

 もともと長身なので、トレンチコートを着て、「伝説の殺し屋」役がよく似合う。「相手役」?に、同じく長身のジジイ、岸部一徳に不足はない。彼は、「ヤメ検」で、石橋蓮司扮する殺し屋、市川進のところにヤバい物件を依頼に来る。必殺仕置き人ではないが、殺されて当然のやつばかりである。実際に殺しはおきるのだが、実は、市川進、実態は「売れない小説家」で、ハードボイルドの描写にこだわっている。そこんところは、きっちり描く。そのために、「ほんとうの殺し屋」を雇っている。金は、「物件処理屋」の岸部一徳から入る。「ほんとうの殺し屋」は、アメリカの軍隊だったかで鍛えられた経験を持つ、表向き修理屋、いろいろな武器を隠し持っていて、蓮司の注文によって使い分け、殺(や)ったときの、感じをこと細かに話し、それを蓮司がメモっていて、自分の書斎で小説に仕上げる。この「実際の殺し屋」は、妻夫木聡が演じていて、これが舌を巻くほどうまい。

 荒唐無稽な設定ながら、ちゃんとリアリティを埋めているところが、丸山昇一の脚本のすばらしいところである。したがって、「忘れ去られたミュージカルスター」役の、桃井かおりの台詞もキャラもすばらしい。「売れない小説家」を支えてきた、元教師(ほかの人物がつぶやく、小さな台詞で明かされる)の妻、大楠道代もなりきりで、蓮司がなんで洗濯物を干したりしてるのかな?という理由がすぐわかる。蓮司が関係する出版社のベテラン編集者の佐藤浩市も、新人編集者も、ヤクザ(柄本明)も、その怪しげな中国人のヒットマン豊川悦司)も、すべて、実力に相応の台詞とキャラが用意され、かつて前衛演劇が頂点であった時代を彷彿とさせながら、まぎれもなく、2000年代なのである。丸山は、台詞のなかに、今の「あるある」を再現し、引退シニア夫婦の生活に、今を皮肉って爆笑させる。

 すでに題名からして笑いを誘うが、内容も、半年間は思い出し笑い必至の、ごぎげんな作品だ。