現象の奥へ

【詩】「時間の引用」

「時間の引用」
 
タヴィアー二兄弟の『サンロレンツォの夜』は確かに観たと思うが、その紺色のイメージ以外思い出すことができない。日本映画で美しい映画といえば『泥の河』で泥色の雨が降りしきる川面にできる水の輪っぱ以外思い出せないこともない。河岸に着けた舟がホームで母親は加賀まりこだったか──。昔懐かしい映画にろくなものはないと蓮實重彥は言い、しかしその蓮實が「映画語」が使えると認める金井美恵子は許しがたい。ことほどさように、前コロナ時代は終わった。終わってないのは、江戸時代で、
 
 傘をたゝまで蛍みる夜哉 舟泉(『春の日』「夏」)
 
連中すべて死に絶えてひとりコロナの盆踊り。