現象の奥へ

『悪人伝 』──仁義なきカタルシス(笑)? (★★★★★)(ネタバレ注意!)

『悪人伝』(イ・ウォンテ 監督、2019年、原題『THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL』)

タランティーノより残酷、スピルバーグよりうまい。なにより頭で作ってない。生活感を出しながら、物語を展開させる。でたらめ、はちゃめちゃ、どろどろ……仁義なき、どころか、仁義という言葉は辞書にない世界──。
 まさに残虐を体現している極道のボスがいて、もうこれだけでも、暑苦しいのだ(笑)。ところがどっこい敵対する相手方の残虐なボスもいて、この二人は、勢力争い「ちう」。そこへ、はみ出し刑事が登場して二人の犯罪を暴こうとするが、そのうち不可解な連続殺人が起こる。刑事としてはそっちの事件の方が気になる。アメリカ映画でいえば、市警である。事件が拡大していくと、広域犯罪取り締まり警察が介入してくる。アメリカ映画でいえば、FBIの登場である。警察たちもシマ争い。ヤクザたちもシマ争い。そこへ不条理な連続殺人事件。犯人は、変質っぽい若造であるが、意味もなく殺人を犯していく。韓国も、基本銃社会ではないので、武器はナイフである(笑)。ナイフでめった突きというスタイル(笑)。凶器のナイフは見つかるが、指紋がない。だいたい指紋とか毛髪とか、遺留品がない。それもそのはず、犯人は、薬品であらかじめ指紋を消している。そして、ニーチェの『善悪の彼岸』とかを読んでいる。英語タイトルの『The gangstar, the cop, the devil』の、まさに、デビルである。ヤクザ、刑事、悪魔。これらが三つ巴になり、暴力のかぎりを尽くす。
 ああ、そうか、そういう混沌なのか、と思って見ていると、やがて、法なるものが登場して、デビルは逮捕される。動機がないのだから、物的証拠もないはずなのだが、失敗を犯していた。連続殺人の生け贄として、極道のボスを襲っていたからである。こいつが、チョーワルで、チョーつおいので、殺すことができなかったのである。で、そいつの体に付けた傷と、そいつから受けた傷が、「物的証拠」となる。しかも、極道は刑事と取引していて、連続殺人犯と「同じ刑務所」にいれてもらった。そこで──(おそらくは)極道が悪魔に復讐するんでしょうね。しょうね? そう、映画は極道が悪魔に近づき、にやりと笑ったところで、終わってしまうんです。さすがの悪魔も、極道には勝てなかった? ミステリーとしてもよくできていた。
 暴力の混沌の果ての、カタルシス! 拍手!