現象の奥へ

【Bookレビュー】『新型コロナウイルスを制圧する』──目次に期待して読むと肩透かしを食う(★★)

『新型ウイルスを制圧する』(河岡義裕 語り、河合香織 聞き手)(2020年7月30日、文藝春秋刊)

この本は、山中伸弥氏のサイトで紹介されていたので信頼がおけると思って買ってみたが、「東京大学医科学研究所ウイルス感染分野教授」の河岡義裕氏へのインタビューを、「ノンフィンクション作家」がまとめたものである。河岡氏が「著者」というわけでもない。つまり正式な論文ではない。論文にはデータもいるし、検証もいるので時間がかかる。こうした題材はいち早く出版したいというところで、こういう形式になってしまったのだろう。しかし、こういう「語り」の形式には罠がある。先に書いたように「検証」など必要ないからである。内容としては、免疫学者の宮坂昌之氏が書いた、講談社ブルーバックスの『免疫力を強くする』に一部重なりながら、この著書には及ばない。いわゆる世間の「コロナ禍」に関しては、さまざまな説や本が出回り、いったい何を信じたらよいかわからないようになっているが、結局、地味な論文を検討するしかなく、それには時間がかかるということである。それを素人の代わりに読み込んで、コメントもまじえながら、サイトで発表されているのがノーベル賞学者の山中伸弥である。山中氏も細胞の研究をされているが、もともとは接骨医である。この河岡氏も、「ウイルスの世界的権威」になっているが、もともと獣医である。スタート地点の専門から関心が細胞やウイルスに移っていき、その分野で成果をあげたという、山中氏とは同じようなキャリアを持っていると思われる。
 しかし、この「テ」の本は、権威がウリとなり、この河岡氏もウイルスの分野では成果を上げて「世界的権威」になっているので、まあ、その通りなのでしょう。だからといって、正しいとは限らないと思うが。
 たとえば、「亡くなる人と生き延びる人の違い」という小見出しの内容には、その見出しの「答え」は書かれていない。違いがわかった。それだけである。これは、やはり、安易に言うことはできないのだろう。この種の本は、いかにも、「ワクチンはいつ実用化されるのか?」などの、読者に期待を持たせるような目次が並んでいるが、「それがわかったら苦労をしない」(笑)のが現実であり、また、山中氏のサイトにあった論文(おもに外国の)にあったように、新型コロナウイルスは、免疫が作られないという場合もあるようである。
 ただひとつ言えるのは、新型コロナウイルスや、ウイルス全般の研究はともかく、今のようなパンデミックを招いたのは、やはり、武漢での「情報隠匿」のせいであるのは、多くの人が指摘しているとおり、この本でも言明されていて、それはそうかもしれないと思った。
 やはり、本を作る側の、ジャーナリスティック的にオーバーな態度が、学術研究とはかみ合わないような気がする。目次に書かれている項目に期待して読むと、肩透かしを食う。