現象の奥へ

『ベージュ 』──ついぞ「惨めさ」に縁のなかった詩人(★★★★)

『ベージュ』(谷川俊太郎著、 2020/7/30刊、新潮社)

「大御所」であるが、この詩集は、「私はそういうものには関係ないですし、関係ないように生きてきました」と言っているような「装丁」である。31編の詩を含んでいるが、どちらかと言えば「薄くて小さい」。「装丁界の大御所」のなんたらという名前はない。新潮装丁室のさりげない装丁である。私がいちばん惹かれるのは、この装丁である(笑)。タイトルどおりのベージュの下地に、薄い色目の曲線が走っている。この、あっさり感が、この「大御所」の書き手としてのスタンスであるようで、現役感がある。
 しかし中身は、この装丁からの期待に必ずしも沿っていたというわけではなかった。いちばん目の詩「あさ」がいちばんいいように思った。この非常に長い間第一線を走ってきたと「思われている」詩人は、詩人としての素質を決定的に欠いている。それは、「貧しさ」と「惨めさ」である。集中、その「惨めさ」を回避して当然だという考えがの詩があるが。

 「あさ」の第二連

 めがみる
 ゆきがふっている
 みみはきく
 かすかなおと 
 ひとじちが
 いきをしている
 どこかで
 いま

これ以上の詩片はない。

 

 

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