現象の奥へ

『グッバイ、リチャード!』(ウェイン・ロバーツ監督、2018年、原題『THE PROFESSOR/RICHARD SAYS GOODBYE』)

肺がんで、治療すれば一年、もしくは一年半、と、医者が言い、文学の教授のデップは、「治療しなければ?」と問う。医者は答える。「半年」。がーん。それから、デップ=リチャードの、いかに生きるか? が始まる。だいたい、大学教授の話だが、はて、プロフェッサーなんだっけ? で、周囲の人々は、学生も学長も妻も親友も、「リチャード」と呼んでいる。学生に対しては、「リチャードと呼んでくれ」と指示する。「ついでにマリファナの売人も、知ってたら紹介してくれ」。自分の事情については、親友と、教え子で、課題の発表でAを取る、女学生にだけ教える。しかし、最後には、妻や娘も、なんとなく察しはつく。余命半年だとしたら、いかに生きるか? これまでデップがやってこなかった役柄であるが、文学の教授がよく似合う。最初、やけくそになって、めちゃくちゃやろうとするが、しだいに、文学に目覚めていく(笑)。このあたりを、わりあい精緻に描いている。
 気がついたら、文学の素質を持った学生だけが残り、デップは彼らに人生いかに生きるかを教える。孤高を固持し、文学の深さを追求せよ。そして彼は、葬式など、死に関するシーンがでてくる前に、車で愛犬を連れて(!)旅に出る。おそらく、このまま、どこかに突っ込んでしまうのだろうか? 愛犬には「ごめんね」と言っている。まるで自分まで、彼の教え子になったかような気がしてくる。エキセントリックな物語ではない。しかし、デップの魅力が自然と染みてくる作品だ。髪型、目つき、体つき、すべて美しい。もしかしたら、ブラッド・ピットより美しいかもしれない。(ほぼ)無冠の帝王にして、希有な役者。意外にも、本作では、音楽が端正かつ贅沢である。