現象の奥へ

【短編を読む】「芝居がはねて」チェーホフ

【短編を読む】「芝居がはねて」チェーホフ、松下裕訳(チェーホフ全集(筑摩書房)第6巻所収、翻訳原稿にして約10枚)

 母とともに「エヴゲーニー・オネーギン」の舞台を観た16歳の少女が、芝居の中の少女に影響されて、自室に戻って、衝動的に手紙を書き始めるが、誰宛とも決まっていない。ただ、自分を恋しているとわかっている二人の男を思い浮かべている。少女にありがちな、恋に恋するというより、もっと掴みがたい高揚、生きている空気感を、32歳のチャーホフはみごとに表現している。ただ、その少女の気分、思いを描いて、終わる。新聞に発表されたが、連作の一部であったようだ。