現象の奥へ

『ファナティック ハリウッドの狂愛者 』──センスはよいがリアリティがないのが致命的(★★★)(ネタバレ)

『ファナティック ハリウッドの狂愛者 』(フレッド・ダースト監督、2019年、原題『THE FANATIC』)
(2020/9/23@KBCシネマ福岡)

 役者で観る映画がある。トム・ハンクスダイアン・キートンジョン・トラボルタ……などなど。彼らが出るといえば、とりあえずは観ようと思う。そのトラボルタが、熱狂ファン(ストーカーじゃないっ!(笑))に扮するとある。コピーは「トラボルト史上最狂」。そして、おかっぱ頭に派手なアロハ、半ズボン、リュックのヤバい姿のトラボルタの写真。展開としては、熱狂的な読者が作家を「捕らえて」ベッドに縛り付け、切り刻んでいく、『ミザリー』を思い出したが、ああいう展開でもなかった。というのも途中、トラボルタ扮するムースは「愛する」スターをベッドに縛り付けたはいいが、そのヒーローにうまいこと言われて信じ、縄をほどいてしまって、その俳優から、銃で反撃され……いや、もう攻撃に近い。このスター、最初から、なんらカリスマ性のないイヤな男で、これがヒーロー? なのである。その邸には、セコムのような監視装置はまったく配備されていないし、その俳優から最初に攻撃(サイン用のペンで腹部あたりを刺される)されても警察の介入はまったくない。やっと最後になってムースがその俳優から銃で指を吹き飛ばされ、さらにナイフで刺され、命からがら逃げてから、やっと警察が現れ、その俳優を逮捕する──だいたいそのあたりで終わる。なんちゅう映画だ?!
 アメリカのオッサンの天才バカボンみたいな格好のトラボルタが、現実の彼とは真逆の役を演じるのだが、設定にはリアリティが見出されず、暴力が丸出しで、イヤな感じになるだけ。そこが致命的である。しかし陰気な感じの音楽と、漫画的を導入したところはちょっとしたセンスが感じられる。