現象の奥へ

『博士と狂人 』──メルとペンが浮かび上がらせる言葉の世界(★★★★★)

(2020/10/19@キノシネマ天神)

『博士と狂人』( P・B・シェムラン監督、2018年、原題『THE PROFESSOR AND THE MADMAN』)

メル・ギブソンショーン・ペンが共演と知って、またどんなアクション映画? と思ったが、意外やオックスフォード辞典編纂の物語だった。この映画で描き出される、文学作品から引用される言葉こそ残すべき言葉であり、その出典も明記していく。それは辞書としてきわめて正統なやり方で、もしかしたら、このオックスフォードが基礎となっているかもしれない。それは、フランス語の『ロベール』とて同じで、日本では、大槻文彦の『言海』などが思い浮かぶ。その現場、独学の学者ギブソンと精神を病んで犯罪を犯してしまった外科医のショーン・ペンが、互いに本好きで、『失楽園』だの『聖書』だのディケンズ作品などから、次々言葉を「拾い」かけ合うシーンが生き生きとしてすばらしい。結局は、「メロドラマ」になってしまうが、なんというか、慈悲深いギブソンの海のように澄んだ青い眼、狂気の中に救いを求めるペンのやや灰色の青い眼が、画面のなかに何度も登場し、陰惨な時代に人間的な暖かさを感じさせる。できすぎたストーリーではあるが、ま、ドラマはドラマチックでなければならない。