現象の奥へ

『ストレイ・ドッグ』──ニコール入魂の一作(★★★★★)

2020/10/24@キノシネマ天神

『ストレイ・ドッグ』(カリン・クサマ監督、 2018年、原題『DESTROYER』)

 30年前なら、デ・ニーロあたりが演じたような役を、ニコール・キッドマンが演じる。色は売らない。スカッとするような解決もない。シャーリーズ・セロンも、CIAのオフィサーを演じて、色は売らずに、腕力で男どもをバッタバッタと締めあげたが、それは、エンターテインメントのスカッとする話だった。本作のキッドマンは、LAのやさぐれ刑事で、中身はほとんどオッサンであり、ブスではないが、すさんだ風貌をしている。キッドマンとセロンを比べると、たぶん、セロンの方が肉体的にはより大柄で、肉付きもいい。一方、キッドマンは今回、かなり痩せて出ているが、線が細い。その線の細さが、惨めな生い立ち、つらい過去を持ち、それでも、一抹の正義の優しさを秘めている感じを表している。しかし、決して容赦はしない。男も女も、徹底的に攻撃する。
 キッドマン扮する、エリン・ベル刑事は、若い頃、FBIの男とカップルに扮して麻薬のチンピラグループに潜入した。そのグループが銀行強盗を始めようとしたことは、想定外だったが、それに乗じて、金の一部を横取りしようと、相棒のFBIに持ちかける。しかし計画は失敗し、相棒を怪我と犯罪に陥れ、自分もからがら逃げた。銀行員の女性は殺された。
 それは17年前のことで、そんな過去を抱え込みながら生きてきた。あるとき、そのグループのボスとの対決の機会がやってきた。エリンはここぞとばかり食いついていく──。しかし、女性監督カリン・クサマは、そのまま男のノワールにはさせておかない。本作は、愛の物語に転じていく。つまり、おとり捜査の恋人役であった男を愛し、その男との子供(娘)を産み、その娘に疎まれていた。元夫は娘のほんとうの父親ではなかった。なんとかグレかかっている娘を救い、最後の復讐にかける。
 それは、むしろ、その復讐劇から始まる。女の心の痛みを、女を超えたアクションでこなす。ニコール、入魂の一作。