現象の奥へ

【詩】「ドイルを待ちながら」

「ドイルを待ちながら」
 When I look at it my chagrin at the loss of the letters becomes almost intolerable.(Henry James "The Aspern Papers")
 それ(「私」の机の前の壁に掛かっていた絵。すでに売ってしまった)を見ると、手紙(詩人アスパンの恋文(資料))を失った苦しさが耐えがたくなるのだ。
  アメリカ随一の人気詩人Billy Collinsは、『The trouble with poetry and other poems』という詩集のエピグラフにヘンリー・ジェームズの言葉を引いていたが、どこからの文章か、明記していない。それは、私が上に引いたのとは違う文章だ。私が上に引いたのは、小説『アスパンの恋文』からである。
ヘンリー・ジェームズも、T.S.エリオットと同様に、女性には興味がなくて、生涯独身で、イギリスで暮らした。しかし、生まれは、ニューヨークの、ワシントン広場やグリニッジ・ヴィレッジのあたりである。雰囲気からは似つかわしくないが、かえってそういう生まれの方が、古典的物語にとらわれずにすんでいるのかもしれない。
 ワシントン広場というのは、ヒッピー時代には、麻薬が売買される、怪しい地域であったようだが、9.11の事件ののちは、牙を抜かれたようになった。湿った地面がむき出していて、街中だけどリスがいる。
 私がこの地を訪れたのは、この地の演劇に関する卒論を提出して、30年以上経ってからだ。遅ればせながら、そこで、「オフオフブロードウェイ」の芝居を観た。まだやっていた。しかしもはや、なにか骨董品のようになっていた。ジャズ・ハウスでもジャズを聴いたが、なんか観光客向けにしらけた感じでやっているようでもあった。
 ニューヨークには何もなく、NYPDだけがパトロールしていた。
 ホモセクシャルでも、オーデンのように、イギリスからアメリカに移住するひともいる。どっちの方が住みよいのかな。
 ここは、ロシアの演出家のスタニスラフスキーが開発した演技術の支店もあるので、ジーン・ハックマンなどが、スターになれたわけだ。
 そう。私はまだ、ドイルを待っている。

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