現象の奥へ

【詩】「魔の山」

魔の山
 
ハンス・カストルプが従兄を訪ねて上る
サナトリウムのある山は
雲を漂わせながら目の前に立ちはだかっていた
それは、カフカの城のある山のようでもあった。
われわれ日本人は、そのような山を持ち得ない
せいぜいが、緑の樹海に覆われた山
だがドイツ語民族の山は
幻のように魔王のように眼前に黒々とはだかるのであった。
頑健な青年はそこで、
菌に感染し
見舞客だったが、患者に転じる
この転倒劇
これこそ魔の山の本性
いま
それをわれわれ日本人は持つ
満月の夜
その下に
魔の山が拡がっていると。


f:id:palaceatene:20210130232059j:plain