現象の奥へ

【詩】「百人の探偵」

「百人の探偵」
 
吹きつけるように新型コロナウィルスの降る夜
百人の探偵が帰ってくる
長靴は履かず、
口ひげもつけず、
しかしマスクをして
決して猟奇的とは言えない
事件を
解決するため。
それは、
偶然にひとからもらった
箱入りチョコレートを口にした
夫婦のうち、妻が死んだ
たいした事件ではない
しかし
解決できなかった。
それで「難問解決友の会」が開かれ、
百人の探偵を呼び戻すことになった。
一人、お決まりのトレンチコートと帽子
二人、とても探偵には見えないおばはん
三人、八十代の老人
四人、身より不明の老人
五人、いつもカフェの片隅にいる老人
六人、目の見えない男
七人、もと刑事
八人、骸骨
九人、女
一〇人、夫婦のうちの夫
一一人、夫婦のうちの妻
一二人、犬連れ
一三人、猫連れ
一四人、熊連れ
一五人、世界で初めての探偵
一六人、美術評論家
一七人、俳優
一八人、殺し屋兼業
一九人、歌手
二〇人、ノートルダム寺院にいた
二一人、老女
二二人、歴史家
二三人、スコットランドヤードに現役で勤めるもの
 
密になるな!
 
二四人、宇宙人
二五人、ロシアから
二六人、イケメン俳優
二七人、豚飼い
二八人、かつてシェークスピアと呼ばれた男
二九人、梅沢富美男
三〇人、農夫
三一人、シェフ
三二人、発明家
三三人、医師
三四人、ベイカー街に住む者
三五人、バレリーナ
三六人、相撲取り
三七人、数字に強い者
三八人、凡庸な風貌
三九人、武漢から来た者
四〇人、武漢の野生動物市場で働いているもの
四一人、WHOに勤める者
四二人、無職で趣味が探偵の者
四三人、今監獄から出た者
四四人、風神
四五人、高野山の庭師
四六人、フルート奏者
四七人、菓子職人
四八人、小学校教師
四九人、船頭
五〇人、銃器店主
五二人、ただのオカマ
五三人、ドラッグクイーン
五四人、小説家
五五人、占い師
五六人、手品師
五七人、工員
五八人、IT企業に勤める者
五九人、IT企業経営者
六〇人、Amazonで働く者
六一人、ウバーイーツ従事者
六二人、泥棒
六三人、詩人
六四人、僧侶
六五人、少女
六六人、少年
六七人、いま自殺をやめた者
六八人、スリ
六九人、映画監督
七〇人、介護士
七一人、認知症の老婆
七二人、推理小説愛好家
七三人、サーカスで働く者
七四人、内閣総理大臣
七五人、大統領
七六人、クリミア半島の別荘番
七七人、ウォッカ工場従業員
七八人、透明人間
七九人、建築家
八〇人、美術史家
八一人、原子力研究所で働く者
八二人、車椅子のひと
八三人、ソムリエ
八四人、いまトイレから出た者
八五人、明智光秀十兵衛の霊
八六人、連歌師
八七人、バチカン職員
八八人、ダヴィンチの末裔
八九人、イタリア鉄道の駅員
九〇人、浮世絵師
九一人、FBI捜査官
九二人、CIA捜査官
九三人、獣医師
九四人、ホストクラブで働く者
九五人、八百屋
九六人、宮内庁の鴨の世話をする係員
九七人、織田信長にあこがれる百姓の子孫
九八人、明智小五郎明智光秀の関係について調べる者
九九人、マスク業者
一〇〇人、新しい政党を作るべきか考えている者
 
すべて、白いマスクをして、
やってくる。さすがのコロナも
怖気をふるって
どこかかなたへ
消えていく──
はて
その
事件だが──