「クリステヴァの『アブジェクシオン』」
ジュリア・クリステヴァの『恐怖の権力』は、「アブジェクシオン試論」という副題が付いている。私はその本に関心をなくし、低い本棚に二列に並べた本の奥の方へ置いていた。そこへ移すまでは、もっと関心をなくしていたが、井筒俊彦の高野山での講演CDを聴いていて、
クリステヴァという名前が出たので、やや関心を持ち、そこへ移したのだった。そして──
津波で水に呑まれ、もがき、水を飲み、それでももがき、さらに水を飲み、ついに限界を超えていくとき──
あるいは、家畜を屠るのが仕事のひと
あるいは、妻の首を締め、気絶したのを九階のベランダから突き落としたとき
子供を叩き殺したとき
鹿を斧で叩き殺したとき
その瞬間を
想像したとき、
私はその本のことを思い出し、
やっと開く気がして
取り出した。ページを繰れば、
鉛筆で線が引いてあった──
アブジェクシオンとは、クリステヴァの造語である
それは、
もしかして、
魂
のようなもの。
確かに
そこに、
球形として
見えている
もの。