現象の奥へ

【オンライン連載小説】「私のように美しい女、あるいは、いかにして私は火星人を愛するようになったか@2021」3

【オンライン連載小説】「私のように美しい女、あるいは、いかにして私は火星人を愛するようになったか@2021」3

 

 

あれから、いわゆる「コロナ禍」と呼ばれた時代は、誰もの期待に反して十年続いた。誰もの予想を超えて、全世界の人口の1/3が死んで、おまけに、「想定外」というか、まったく想定されないわけでもなかったが、核戦争が起こった。それも二度。最初の核戦争を、第一次核戦争といい、二番目のを第二次核戦争と言った。まあ、そんなこと、あたりまえというか、あたりまえでないというか。ゆえに、原発事故とか、そういうレベルのものではなくて、ことの始まりは、これは誰もの想定を大きく超えて、火星人が攻めてきたのであった。しかも、いきなり、核で攻撃してきたのである。したがって、地球は、すべてが核で汚染され、もうどこにも、まっさらな場所は残されていなかった。地面も海も。それでも、世界人口の「コロナ禍」で生き残った人々が、まだ1/3いたが、それも、核戦争で、1/1000000に減った。

 そんなとき、山下晴代は、まだ自宅にいて、寝たきり老人になっていた。すでに自分が何歳かはわからなくなっていたが、100歳にはなってないような気がした。神経痛に見舞われ、体がずきずきと痛んで、もういつ死んでもいい、防災なんかカンケーねー、津波でもなんでも来やがれ!と思っていた。いつかどこかで読んだ、あるいは、読んだような気がしただけかもしれないが、70歳を迎えて「女でありたい」という女主人公の小説を思い出した。作者と等身大の主人公のように思われたが、この「女でありたい」の「女」って、いったい、どういう思想のもとでの女なんだろうと思うに、男というものに、性的魅力をアピールできる存在とまあ、そういう思想というか、イデオロギーから来てるんだなと思った。老いさらばえた体に、ブルーとピンクのブラジャーをあてがって悦にいるシーンがあるが、まさに、色基地外(爆)。「いいかげんに枯れろよ!」と、山下はその作者=主人公に向かって言っていた。瀬戸内寂聴だって、あれで、適度に枯れているんだぜ、というか、あれほどの「修行」(経験値)がなければ、こういう小説は、ヤバい、それこそ、「墓穴革命」でないの? この小説の題名は「疼くひと」とついていたが、まさに山下こそ、(神経痛で)疼くひと、であった。そこで、山下は、万年床に入ったまま、iPad(初代。ゆえに、重い、ゆえに、顔の上に落としたら、顔面血だらけになる……(笑))で、メル・ギブソンの『リーサルウェポン』シリーズを見始めるのだった。

そして、「4」に達した時、山下は眠るように息絶えたのであった。おー、最高の死に方!トーマス・マンの「ヴェニスに死す」のアシェンバハに勝るとも劣らない死に方であるな。彼はヴェニスの海岸で執筆していて、愛する少年を見かけ、そこで何か語りかけようと、椅子から立ち上がったところで息絶えたのであった──。

to be continued !

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