現象の奥へ

【詩】「千賀家具店」

「千賀家具店」

無関心の音楽
こころ 時間 空気 火 
恋人たちの地すべり的沈黙の砂
彼らの声をかき消してくれこうして
聞こえなくなる
私は黙る
千賀家具店は
父が勤めていた家具店で
お正月には父に自転車で連れられていった
こたつの上に四角い重箱が何段か
重ねられたものがって
「どれでも好きなものを食べていいよ」
と言われたので
いちばん上の小エビの赤黒い佃煮用のものを
箸でつまんで食べた
ような気がする これが
おせち料理というものだ と思った
生涯最初のおせち料理
帰りに父の自転車の子供用椅子に乗ったら
「まあ、りんごのようなほっぺだね!」
と店の女の子たちに言われた
遠い
記憶と時間が
春の雨のように
入り混じり いつか出会う
Bのことを
考えた。

musique de l'indifférence
coeur temps air feu sable
du silence éboulement d'amours
couvre leur voix et que
je ne m'entende plus
me taire

***
Samuel Beckett, "Poems in French", POEMES 1937-1939 より引用)