現象の奥へ

『アオラレ』──この時代、恐怖映画は難しい(笑)(★)

『アオラレ』(デリック・ボルテ監督、2020年、原題『UNHINGED 』)

 スターが演じる凶悪犯……。ルトガー・ハウアーの『ヒッチャー』ではないが、ついこのあいだだと、ドラボルタのストーカー。しかし、このテの映画は、初めから成功しないことはわかっている。というのは、スターと、凶悪犯が矛盾してしまうからだ。まあ、ルトガーなど、妙に愛嬌ある凶悪犯というところがミソであったが。それはともかくとしても、この映画、クロウ以外はスターは誰もおらず、このテの紋切り型で、なるべくしてなっていって、最後は被害者のヒロインが気丈にも犯人を殺し、お約束通りのめでたしめでたし。この映画が、せめて二流になるためには、ヒロインがそれなりに魅力的でなければならないが、不美人ではないにしても、まったく同情できない表情と演技。演出も脚本もだめ。伏線だけ拾えばええだろーという拾い方(笑)。

 いくらパンデミック時代とはいえ、こんな映画に出ているとは、ラッセル・クロウも劣化が激しい。もうどんな恐怖映画も全然怖くなくて、どんなパニック映画も全然ヒヤヒヤしないで、いったい映画芸術はどうなってしまうのだろう? というのが、一番の恐怖である(笑)。

 ラッセル・クロウと題名につられて、「要」と「急」を感じて、今年「初めて」劇場に走ってみたが、原題のunhingedは、抑えがきかないという意味だが、邦題の『アオラレ』に騙された!(笑)。肝心のアオり運転場面はほとんどなかった。中身はべつものじゃんね(笑)。