現象の奥へ

『Mr.ノーバディ』──コロナ以後は介護老人にもご用心!(笑)(★★★★★)

『Mr. ノーバディ』 (イリヤ・ナイシュラー監督、 2021年、原題『NOBODY 』)


「さえない地味な中年男がキレて……」と映画サイトの説明にあるが、それはちょっと違う。そういう方が今の人々の関心を誘いやすいのだろうか? 本編は、初めから、タイトル通りの「ノーバディ」(「ノー「ボ」ディ」のタイトルだと、別の映画がいくつもある」)と、「某組織」に登録されている男が本性を現す物語で、類似の作品では、トム・クルーズデンゼル・ワシントンマット・デイモンなどが演じた、凄腕の殺し屋的な一匹狼が活躍する、そんな作品を思い出させる。

 しかし、いかにも今の時代にぴったり来るのは、主人公の男が、「アラカン」(60歳前後)で、バスに乗り込んできたチンピラ集団からは「ジジイ」と呼ばれるお年頃であることだ。しかし、このジジイの凄腕さかげんが、これまでのどんなヒーローよりも「凄い」のである。どんなスパイのヒーローもまず無理な脱出を、このジジイはしてみせる。これまで見たことのない「テク」を持っている。しかも、どんな武器もお茶の子さいさい。しー・かー・もー、このジジイのダッド、介護施設に入っているが、ロシアンマフィアから狙われ、事件がだんだん大がかりになると、アラカンジジイは、そのダッドにスマホでぼそぼそ、なにかを連絡する。ジジイのオトッツァンである、大ジジイは、テレビを見ながら、安楽椅子でうとうと思いきや、忍び込んだマフィアどもを、ショットガンで木っ端みじん。「ほんとはこれがいちばん元気になれる」と、介護老人。

 で、まー、なんちゅうか、これからの映画だと思います。主役も、よい映画に出ててはいたが、脇役だった、オンデークみたいな名前の俳優が飛び出してきた。端正で地味な風貌が、トム・クルーズマット・デイモンみたいに、派手なアクション顔してないところが、「コロナ以後」を期待させる。場面を音楽で区切って表現しているところも面白い。介護施設で大暴れする大ジジイは、『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』のクリストファー・ロイドが演じている。