現象の奥へ

『ファーザー 』──ただのボケ問題を美化しているだけ(笑)(★)

『ファーザー』(フロリアン・ゼレール監督、2020年、原題『THE FATHER 』)

 この映画が作られたのは、2019年、おそらくパンデミック騒ぎになる寸前と思われる。すでにして旧世界である。今でこそ、認知症などという病名が大手を振って歩いているが、昔から「ボケ」は誰にでも、どこにでもあった。その場合、本来の性格が強調されて出てくる。エロ爺はさらなるエロに走って病院のおばーちゃんのベッドのなかにも入り込む。怒りっぽいひとはさらに怒りっぽく、ケチな人間はさらにケチに。この映画の老人は、やはり性格がそれほどよくなかった。それで周囲の人々を「むかつかせる」。

 はいはい、アンソニー・ホプキンスさん、あんたの演技がうまいってことはわかりましたよ。日本の家庭でもどこにでもある「ボケ老人」の問題を、意味ありげなオペラだかなんだかを背後に流し、「崇高そうに」演出している。だけ。はっきりいって、目新しいものはなにもなく、何度も寝落ちしそうになった。映画の撮影はパンデミック前で、アカデミー賞パンデミック後。すでにして、なにか大きく変わってしまった……ような。こんなジジイやババアが「活躍する」(笑)映画しか、「残っていなかった」のかしら? てな、時代。