現象の奥へ

【短編を読む】「虫のいろいろ」尾崎一雄(400字詰約25枚)

【短編を読む】「虫のいろいろ」尾崎一雄(昭和23年『新潮』1月号、400字詰原稿用紙約25枚)
 
 たとえ詩であっても、もはや、このような微細な題材で、微細な視点で、深い思考を書く人はいない。病気で寝ている作者が、天井に止まっている蠅やガラス戸のクモ、ひいては、話で聞いた蚤のサーカスの蚤にまで思いを巡らし、それを書いているだけ、であるが、今となっては、物や事物や事情が溢れすぎて、なかなか「虫と二人きりになれない」(笑)。そういえば私も、子供の頃などに風邪などで寝ていると、天井ばかりを見つめ、あれこれ空想がわいたものだが。
 本編を読むと、まさに、日本語の思考、その思考の深さに至るまで日本語を使いこなせてはじめて、文学になろうが、ここまで使いこなせないうちに、自分も含めて、いろいろ「洒落臭いこと」を表現しようとしていて、それがあたりまえになっている。
 このまま母国語は滅びていくのであろうか?