現象の奥へ

【詩】「驚異」

「驚異」
 
ポーは詩にとってなくてはならいものは
驚異だとした
と、エリオットは書いている。
神曲』「地獄篇」第26歌にはそれがあると。
それはいかなる驚異か。
オデュッセウスとディオメデスが
ひとつの炎のなかで焼かれている。
でかいマラ(男根)。
ゆるやかに流れていくその川はギリシア
と言いながら私は故郷の豊川(とよがわ)を思い出している。
詩人北川透氏の奥さまは
私の中学の先生であった。
灰色の眼の冷たい感じの美人。
どうしてわかったかと言えば、
担当の数学教師のおばさんに
豊橋に有名な詩人がいるんですよと
言ったら、「あら、I先生の旦那さんみたいね」
私は大学在学中であったが
卒論だけ提出して故郷に帰って
地方紙の記者を始めたところだった。
そのとき、この若造は、
詩の時評を書いていた。
北川氏に手紙を書くと、
投稿欄であなたのことは知っていました。
この地方の若者はぼくとの距離の取り方が
うまくないです、という内容の返事をもらった。
遠い、ちょうどオデュッセウス
川もゆっくりと通りかかっていくとき、
そんな記憶ともいえない妄想が
私の地獄行きにわき起こって、
ひとは個人情報に抵触している
というだろうか?
そうそれは、まぎれもない、
レオナルド(と当時は名前で呼んだとか)とダンテが
洗濯をしたアルノ川。
そして、この川のほとりのホテルに泊まったという
和辻哲郎のホテルの位置を考えながら
ホテルを取ったのだった。
 
Là dentro si martira
Ulisse e Diomede, e così insieme
alla vendetta vanno com'all'ira:
e dentro dalla lor fiamma si geme
l'agguato del cavai che fe'la porta
ond'usci de' Romani il gentil seme.
 
 

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